受遺者の中に法人や人格のない社団がある場合の相続税の計算

甲が死亡した。相続人は配偶者乙、長男丙、長女丁の3人である。総資産の相続税評価額は5億円である。甲が残した遺言によれば、次のとおりである。

  1. 500万円を同窓会館の建設費用として同窓会に寄附する。
  2. 3,000万円を、長男丙が株主となっている同族会社A株式会社に寄附する。
  3. 自宅(相続税評価額5,000万円、時価8,000万円)は育英事業を行っている育英会(人格なき社団)に遺贈する。ただし、自宅の遺贈に係る譲渡所得税額相当分の金員を育英会が負担すること。
  4. 売却代金及び預金の合計額から、相続債務、遺言の執行に要する費用等を除いた残金で奨学金給付事業を行う公益信託を設定する。
    なお、遺言に基づき設定される公益信託は、特定公益信託である(所令217の2①)。

この相続税の計算はどのようにするべきか。

また、遺贈を受けた育英会及び同族法人Aに対する課税はどのようになるか。

なお、丙が100%所有しているA株式会社の相続税評価額は、3,000万円の遺贈により総額1,600万円増加した。

自宅の取得価額等は2,000万円(減価償却費控除後)。

1 納税義務及び相続税法の非課税規定

  1. 同窓会は、代表者の定めのある人格なき社団であるから、個人とみなされ、相続税の納税義務者となる(遺贈による受贈益に法人税等が課税されるときがあればこれを控除する。)。相続税の申告が必要である(相法66①③)。
  2. 株式会社である同族法人Aは、相続税の納税義務者となることはない。同族法人Aに対する遺贈は、Aの益金に算入され法人税の課税対象となる(相法1の3、法法22②)。
  3. 育英会は、代表者の定めのある人格なき社団であるから、個人とみなされ相続税の納税義務者となるが、公益を行うことを目的とする事業体である育英会は相続税法12条の非課税要件を具備するならば、遺贈財産は非課税財産となり、相続税の申告義務は生じない。相続税の申告書第14表に遺贈財産の明細並びに育英会の所在地及び名称を記載するだけでよい。

2 同族法人Aへの遺贈を基因とする同族株主へのみなし遺贈

同族法人Aに対する3,000万円の遺贈により、A株式会社の株式の評価額が1,600万円増加した。これは、甲から、同族法人Aの株主に対し、株式の価額の増加額相当の遺贈があったものとみなされる(相法9、相法9の3準用)。

3 育英会に遺贈した自宅の譲渡所得課税(準確定申告)

被相続人が不動産を遺贈し、これにより被相続人に譲渡所得が発生するときは、相続人は準確定申告を行わなければならない。

育英会は譲渡所得相当額を負担する負担付遺贈を受けている。育英会が負担すべき金額は次のとおりである。

収入金額8,000万円-取得価額等2,000万円-居住用特別控除3,000万円=3,000万円

3,000万円×10%=300万円…負担付遺贈を受けた育英会が負担する金額

(注)ここでは復興税は計算していない。

そうすると、甲の相続開始による相続税額は、5億円からA株式会社へ遺贈された3,000万円及び育英会に遺贈された自宅5,000万円を差し引いた4億2,000万円に丙への遺贈1,600万円(A株式会社への遺贈を基因とした丙所有株式の価額増加相当額のみなし遺贈)及び育英会に対する未収金300万円(育英会の負担金)を加算した4億3,900万円から準確定申告で発生した未払所得税300万円を債務控除した金額4億3,600万円を基とし、乙、丙、丁及び同窓会の4者は相続税の申告書を提出しなければならない。

なお、同窓会は、想像税の申告書に名称、主たる事務所等の所在地、代表者の氏名、住所(居所)を記載し、代表者が押印しなければならない(相規13①三、通法124②一)(参考文献:『相続相談事例集(平成25年版)』大蔵財務協会)。