代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算
代償分割とは、遺産の分割を行う際に、ある相続人や包括受遺者が相続財産を現物で取得する代わりに、他の共同相続人や包括受遺者に対して債務を負担する分割方法である。現物を分割したり売却換価処分したりすることが困難な場合に行われる。
相続財産のうちに農地や事業用の資産、自宅など処分が困難な財産があるとき、その不動産を所有し使用する必要がある相続人が当該財産を取得し、他の相続人には自己が所有する現金や不動産などの相続財産ではない財産を交付する債務を負担する方法である。
代償分割を行った場合の注意点
代償分割を行った場合、税務面で注意する点は2点ある。
一つは相続税の申告における代償債務の評価である。
いま一つは、所得税(譲渡所得)の申告である。
代償分割の目的物の評価
代償分割の目的物(以下、「代償分割物」という。)の評価額は当事者においては時価であるが相続税の申告では財産評価基本通達が定める相続税評価額である。代償分割において、当事者である相続人は、代償分割物を時価評価し、それに対する代償債務を支払うこととするので、代償債務は時価と相応するが、代償分割物の相続税評価額とは相応しない結果となる。
相続税評価額は時価の80%水準とされているので、時価(実勢価額)より低額となり、時価を基準に算出された代償債務もまた代償分割物の相続税評価額を上回ることとなる。
国税庁の取扱いは、原則として時価との乖離を調整することなく通常の評価方法、すなわち財産評価基本通達の定める評価方法で代償分割物と代償債務を評価する方法を原則とする(相基通11の2-9)。ただし、当事者である相続人間で申告書に計上する代償債務の金額を「代償分割物の相続税評価額と時価との比率」で按分し減額した額で申告することも認めている(相基通11の2-10)。相続税の負担に関し当事者間の公平を図ったものである。
詳細は次のとおりである。
代償分割が行われた場合の課税価格の計算(相基通11の2-9)
- 代償財産を交付した者については、相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額から交付した代償財産の価額を控除した金額
- 代償財産の交付を受けた者については、相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額と交付を受けた代償財産の価額の合計額
この場合の代償財産の価額は、代償分割の対象となった財産を現物で取得した者が他の共同相続人などに対して負担した債務の額の相続開始の時における金額になる。
代償財産の価額(相基通11の2-10)時価按分法
- 代償分割の対象となった財産が特定され、かつ、代償債務の額がその財産の代償分割の時における通常の取引価額(1)を基として決定されている場合には、その代償債務の額に、代償分割の対象となった財産の相続開始の時における相続税評価額が代償分割の対象となった財産の代償分割の時において通常取引されると認められる価額に占める割合を掛けて求めた価額となる。
(1)代償分割の対象となった財産(相続財産)を取得する者が、将来、譲渡するときに負担するであろう譲渡所得に係る税金を考慮して対象代償財産を評価し代償債務を決定することも可能である(『相続税法基本通達逐条解説(平成22年版)』p.218)。
- 共同相続人及び包括受遺者の全員の協議に基づいて、1で説明した方法に準じた方法又は他の合理的と認められる方法により代償財産の額を計算して申告する場合には、その申告した額によることが認められる(2)。
(2)配偶者に対する相続税額の軽減制度を利用して相続税の負担を不当に減少させることを目的として不合理な方法によって代償財産の価額を計算している場合などは原則による事になる (『相続税法基本通達逐条解説(平成22年版)』p.219) 。
なお、時価按分法によっても、小規模居住用宅地や特定事業用資産の課税価格の計算の特例などにより、実際に負担する相続税に不均衡が生じる場合があるが、小規模宅地や特定事業用資産の課税価格の計算特例は、評価額の特例ではなく、課税価格の特例であるから、時価按分法においても考慮することはできない(相法69の4①、69の5①)。
所得税(譲渡所得)の申告
代償財産として交付する財産が相続人固有の不動産や有価証券など譲渡所得の基因となる資産である場合には譲渡所得の課税対象となる。代償債務を負う者が、代償債務を支払う代わりに自己固有の資産(土地、有価証券など)を譲渡したと認定されるためである。
代償債務を履行した相続人・包括受遺者は、その履行の時における時価によりその資産を譲渡したことになり、所得税が課税される(所基通33-1の5)。一方、代償財産として不動産を取得した相続人は、その履行があったときの時価により、その資産を取得したことになる(所基通33-1の5、38-7)。