兄弟姉妹以外の相続人は遺留分を持つ(民法1028)。遺言が有効であっても、相続人が配偶者、直系尊属、子又は子の代襲相続人などの遺留分権利者であれば遺留分減殺請求権を行使し、遺留分に相当する財産を取り戻すことができる。

遺留分減殺請求権は形成権であり、裁判外又は裁判上の減殺請求の意思表示により直ちに物権的効果(1)が生ずるというのが判例(2)通説であるが、減殺請求があっただけでは具体的な金額が確定せず、実務上、確定までに長期間を要することが多い。減殺請求を行った側は減殺請求の意思表示を行っただけでは遺産を手にしているわけではなく、遺留分減殺請求を受けた側は、減殺請求による返済額又は価額弁償(民法1041)の金額などが定まらなければ財産計算をすることが実務上困難であり、更正の請求期限である四ヶ月では対応できない。このことから平成15年の改正により遺留分減殺請求権を行使した者は、持戻額が確定するまで相続税の申告義務はないこととされ、遺留分減殺請求を受けた者(非減殺者)は、遺留分の減殺請求により返済すべき又は弁償すべき額が確定したことを知った日の翌日から四ヶ月以内に限り更正の請求ができるとされている(相法32①三)。減殺請求者には、取戻額が確定した時点で新たな納税義務が生じる。この場合、相続税法30条(期限後申告の特則)により、取戻額が確定したときから決定処分を受けるときまで期限後申告書を提出することができる。

(1) 目的物情の権利は当然に遺留分権者に復帰する。

(2) 最判昭35.7.15民集14・9・1779他。

減殺請求者が死亡保険を取得しているなどの理由により当初申告書を提出しているときは、取戻額が確定し納税額に不足が生じたときから更正処分を受けるまではいつでも修正申告書を提出することができる(相法31①③)。

税務署長は、減殺請求者が自主的に期限後申告書又は修正申告書を提出しないときは、更正又は決定を行う。税務署長が更正又は決定できる期間は相続税法32条3号《更正の請求の特則》による更正の請求が行われて日から一年を経過した日と国税通則法70条《国税の更正、決定等の期間原則》の規定により更正又は決定をすることができないこととなる日とのいずれか遅い日までとされている(相法35③)。

加算税は課税されない。延滞税も期限後申告又は修正申告を行う日までに納付すれば課税されない(通法66①ただし書き、相法51②二ハ、相続税個別通達課資2-264 相続税、贈与税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)題1・1・(3)・イ 参考通達等3)。相続税の計算の基礎となる権利関係が変動したことによる修正申告や期限後申告であり、過少又は無申告に関し正当事由があるためである。

図表Ⅱ-3 遺留分権利者と遺留分一覧表

相続人の範囲遺留分権利者遺留分
配偶者だけ配偶者相続財産の2分の1
配偶者・子配偶者・子 相続財産の2分の1
配偶者と直系尊属配偶者・直系尊属 相続財産の2分の1
配偶者と兄弟姉妹配偶者相続財産の2分の1
子だけ相続財産の2分の1
直系尊属だけ直系尊属相続財産の3分の1
兄弟姉妹だけなしなし

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