POINT
個人が死因贈与により財産を取得したときは、相続税の課税対象となる(相法1の3)。
死因贈与契約により法人が財産を取得したときには、受贈益に対し法人税が課税され、相続税の課税対象にはならない(法法22②)。法人に対する死因贈与は、言い換えれば、法人に対する無償譲渡である。法人に対する無償譲渡は、所得税法上は時価で譲渡したものとみなされる(所法59①)。死因贈与された財産に含み益があれば、死因贈与者である故人が法人に対し死因贈与した財産を時価で譲渡したとみなされ、譲渡所得の課税対象となる。故人が納税義務を負うので、相続人が準確定申告を行い故人に生じた納税義務を継承する(所法59①一、所法125、通法5)。準確定申告により確定した未払所得税は相続債務となる。死因贈与された財産が土地家屋である場合、被相続人が居住用の特別控除の適用要件を満たしていれば、準確定申告において3,000万円の特別控除を適用することも可能である(措法35)。
死因贈与は遺贈に関する規定に従うが(民法554)、遺言の方式に関する規定は準用されない(最判昭32・5・21、民集1.5.732)。そこで、相続直前に口頭による死因贈与契約があったが相続税の申告はどうするか助言を求められることがある。
口頭による死因贈与契約も私法上は有効だが、死因贈与契約が締結された事実は納税者が立証しなければならない。書面によらざる死因贈与契約は、契約当事者の一方が亡くなったときに効力が生ずる契約である。契約の効力が生ずるときに契約当事者の一方である贈与者は死亡し、贈与者の相続人が贈与の履行義務を負わなければならない。このように口頭による死因贈与契約は、受贈者以外に贈与契約があったことがわからなくなる可能性がある契約である。書面によらざる贈与契約であるから各当事者も撤回が可能である。履行の確実性を期すならば、あえて契約書等の証拠資料を作成しないという不安定な選択を行う蓋然性は低いと考えざるを得ない。口頭による死因贈与が実際に締結されていたか否かについては、贈与の動機、金額の多寡、受贈者との関係、口頭契約にとどまった理由等を総合勘案して判断することが必要となる。