相続財産のうち分割が確定していない財産を換価し、換価代金を分割する方法がある。これを換価分割という。換価分割が行われた場合、譲渡所得の申告は誰がどのように行うべきかという問題を生ずる。
未分割状態の遺産は潜在的に法定相続分で各相続人に帰属しているので(相続共有状態)、原則として、未分割で処分する場合は、法定相続分の割合による共有持分に基づく譲渡があったこととなる。判例は、共同相続人が全員の合意により遺産分割前に遺産を構成する特定不動産を第三者に売却したときは、法定相続分の割合による共有持分に基づく譲渡がなされたものであり、その不動産は遺産分割の対象から逸出し(最二小判昭52・9・19)、売却代金は、これを一括して共同相続人の一人に保管させて遺産分割の対象に含める合意をするなどの特段の事情がない限り、相続財産には加えられず、共同相続人が各持分に応じて個々にこれを分割取得するとしている(最二小判昭54・2・22)。
これとは異なり、売却する相続財産自体は未分割であっても、共同相続人間であらかじめ換価代金の取得割合を決めているときは、換価財産の相続による取得割合は、換価代金の取得割合と同じ割合とする合意があると解するのが合理的である。
さらに、換価代金を遺産分割の対象に含める合意があり、換価後に換価代金を分割協議や遺産分割審判で法定相続分と異なる割合で分割することは少なくない。このような場合は、現実に譲渡代金の配分を受けた者が取得した代金に応じ譲渡所得の申告をすべきであるという考え方もないではないが、譲渡所得の課税時期は資産の移転の時期であり、未分割財産を譲渡したのは遺産共有の状態下であるから、理論的には、法定相続分で申告すべきとなる。ただし、国税庁は、所得税の確定申告期限までに換価代金が分割され、共同相続人の全員が換価代金の取得割合に基づき譲渡所得の申告をした場合には、その申告を認めるとしている。申告期限までに換価代金の分割が行われていない場合には、法定相続分により申告することとなるが、法定相続分により申告した後にその換価代金が分割されたとしても、法定相続分による譲渡に異動が生じるものではないから、更正の請求等をすることはできないというのが国税庁の取扱い方針である(1)。判例は、上述の通り、遺産の「共有」の性質について古くから一貫して共有説を採っている(たとえば、大判大9.12.22)(2)。国税庁の取扱い方針は判例に則しているわけである。
(1)国税庁HP 質疑応答事例「未分割遺産を換価した事による譲渡所得の申告とその後分割が確定した事による更正の請求、竣成申告等」
(2)『親族法相続法講義案(六訂再訂版)』p.267。