受贈法人が次の法人であり、相続税・贈与税の負担の不当な減少にならないなど一定の要件に該当する場合、相続人が相続税の申告期限までに贈与した遺産は相続税の課税価格に算入しない。
相続税及び贈与税の不当な減少となる場合は、原則に戻り、相続人に相続税が課税される。
相続又は遺贈により財産を取得した者が相続した財産を相続税の申告期限までに租税特別措置法70条所定の法人(限定列挙された公益性の高い事業を行う法人(措法70条、措令40条の3))に寄附した場合、寄附をした者やその親族・特別関係者の相続税・贈与税の負担が不当に減少する結果となる場合を除き、寄附をした財産の価額を相続税の課税価格に算入しないことができる(非課税となる)。
なお、受贈法人(以下のA~J)が、次の要件に該当する場合は非課税にならず、相続又は遺贈に係る相続税の課税価格に算入する(措法70②)。
A.独立行政法人
B.国立大学法人及び大学共同利用機関法人
C.一定の地方独立行政法人
D.公立大学法人
E.自動車安全運転センター、日本司法支援センター、日本私立学校振興、共済事業団及び日本赤十字社
F.公益社団法人及び公益財団法人
G.一定の私立学校法人
H.社会福祉法人
I.更生保護法人
J.認定NPO法人
国等に対して相続財産を贈与した場合の相続税の非課税規定は、昭和38年3月(法律第65号)に新設された。この規定ができる前は、相続又は遺贈により財産を取得した者が、公益の増進に寄与するところが著しいと認められる公益事業を行い、かつ、取得した財産をその公益事業の用に供する場合にその財産を相続税の非課税財産とする規定(相法12①3)があるのみであった。財産を相続又は遺贈により取得した相続人や受遺者が、取得した財産を公益事業の用に供するため公益法人などに贈与しても、その財産には相続税が課税されていた(1)。
(1)ただし、その贈与がその被相続人の意思によったことが遺言に準ずる書面等で明らかに推定された場合に限り、直接遺贈したものとして取り扱われた(直資90(例規):昭和35年10月1日 被相続人の意思に基づき公益法人を設立する場合等の相続税の取扱いについて)。
この制度の立法の趣旨は次のとおりである(2)。
(2)参考:国税庁直税部「昭和38年直税関係改正税法の解説」。
相続税の規定(相法3、7~9、第一章第3節)により相続又は遺贈により取得したものとみなされる生命保険金、退職金等の財産及び信託に関する権利を含む(ただし、集団投資信託等の信託に関する権利(相法9の2⑥ただし書き)及び受益者等が存在しない信託の受託者が遺贈により取得したものとみなされる信託に関する権利(相法9の4①②)を除く。)。
相続開始前3年以内に被相続人から贈与により取得した財産で相続税法19条の規定により相続税の課税価格に加算されるもの並びに相続時精算課税の適用を受ける財産で相続税法21条の5第1項により課税価格に算入されるもの及び21条の16第1項の規定により相続又は遺贈により取得したとみなされるものは含まれない(相法19、21の15①、21の16①)。
相続した建物等が火災により焼失したことにより取得した火災保険金(被相続人又は遺贈者が契約者であるものに限る)は、相続又は遺贈により取得した財産に該当するが、相続した財産を売却した代金は対象にならない。証券投資信託や貸付信託を解約した金銭も対象にならないため、証券投資信託や貸付信託を贈与する場合は特に注意が必要である(措通70-1-6)。
当該贈与又は遺贈を受けた法人の当該贈与又は遺贈に係る公益事業が、その事業の内容に応じ、その事業を営む地域又は分野において社会的存在として認識される程度の規模を有すること。
この場合において、たとえば、次の1から10までに掲げる事業がその法人の主たる目的として営まれているときは、当該事業は、社会的存在として認識される程度の規模を有するものに該当するものとして取り扱う。
当該贈与又は遺贈を受けた法人の事業の遂行により与えられる公益が、それを必要とする者の現在又は将来における勤務先、職業等により制限されることなく、公益を必要とする全ての者(やむを得ない場合においてはこれらの者から公平に選出された者)に与えられるなど公益の分配が適正に行われること。
当該法人の当該贈与又は遺贈に係る公益事業について、その公益の対価がその事業の遂行に直接必要な経費と比べて過大でないことその他当該事業の経営が営利企業的に行われている事実がないこと。
当該法人の事業の運営につき、法令に違反する事実その他公益に反する事実がないこと。