遺言は、遺言者の真意を確実に実現させる必要があるため、厳格な方式が定められている。遺言の方式には大きく分けて自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言という三つの方式がある(1)。これら、民法の定める方式に従わない遺言はすべて無効である。「あの人は、生前こう言っていた」などといっても、どうにもならない。録音テープやビデオに撮っておいても、それは、遺言としては、法律上の効力がない。
(1) 日本公証人連合会ホームページに遺言のQ&Aが掲載されている。
自筆証書遺言ならば全文を自筆し、作成日付を記載し自署押印しておくだけでよいのだが、せっかく書いた遺言をどこに保管しておくか悩みどころである。生前に誰かに読まれてしまうのも困るし、かといって自分がいなくなった後に見つけてもらえなければ何の価値もない。信頼でききる有人に預けておくのもよいが、その友人が先に亡くなってしまったら上手に返してもらうすべがあるだろうかなどという贅沢な悩みもある。
公正証書遺言ならば正本が公証人役場に保管され(2)、遺言書の存在自体は公に確認できる状態にある。これに対し、自筆証書遺言などは、存在すること自体が公にされていないのであるから、遺言を作成した本人の死後、遺言書が存在していることを公に確認してもらい、発見された遺言の保存を確実にして後日の変造や隠蔽を防ぐ必要がある。検認はそのための手続きであり、我が国では遺言の有効無効を判断する手続きではない。遺言が封印されていた場合は、裁判所により開封し、利害関係人に遺言の内容を確知させる目的もある。
(2) 公正証書遺言は遺言者が130歳になるまで公証人役場に保管される。
公正証書遺言以外の遺言書を保管していた者や遺言書を発見した相続人は、相続開始後遅滞なく家庭裁判所に検認請求を行うことになっているので、我々が取り扱う遺言書は原則として公正証書遺言か、検認を受けた遺言書に限られる(民法1004①)。
検認手続きは遺言の有効性を判定するものではない(3)ので要式を欠いた遺言書も検認を受けることができる。封印された遺言書も不印されていない遺言書も検認を怠ると五万円以下の過料に処せられるが(民法969、1005)、検認を怠ったからといって遺言としての効力に影響は生じない。
(3) 大決大4.1.16民録21・8。なお、アメリカでは、遺言書が真正なものかを検認する手続き(probate)が裁判所で行われる。裁判であるためすべて公開される。樋口範雄『入門 信託と信託法』p.57。
日付の異なる遺言が複数あるときは、日付の新しい遺言が有効だが、後の日付の遺言が要式を欠いたり、遺言意思能力がないときに書かれたりしているなど新しい日付の遺言が無効になる可能性もあるので日付の古い遺言も一応検認を受けておくメリットはあるとされている(4)。
(4) 『判例タイムズ1100 家事関係裁判例と実務245題』「家庭裁判所における開封・検認手続きの実際」p.478~479、『遺産分割事件処理マニュアル』 p.120 。
封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いを持ってしなければ開封することができない(民法1004③)。家庭裁判所以外において開封すると過料に処せられるから(民法1005)、封印された遺言書を発見したときには注意が必要である(単に封入されている場合は中を見ても大丈夫)。