信託とは、委託者が受託者に財産を移転し、受託者が信託の目的に従って、受益者のためにその信託財産の管理・処分をすることである。
信託することによって信託財産の所有権は受託者に移転する。一方で、受益者は受益権を取得する。受益権とは、受託者に対して信託財産の給付等を求める受益権及びこれを確保するために受託者に一定の行為を求めることができる権利をいい(信託法2⑦)、信託受益権の法的性質は、基本的には信託財産について受託者に対して有する債権と考えられる。
例えば、A(委託者)が甲不動産を受託者Bに信託し、自らを受益者とする信託を設定したとする。この場合、甲不動産の所有権は受託者であるBに移転するが、信託財産からの給付を受けるのは委託者兼受益者であるAであり、信託財産の経済的価値はAに帰属したままとなる。
以上のようなことから、課税上は原則として受益者が信託財産の所有者とみなされる(受益者等課税信託)。従って、例えば、委託者であるAが自分の妻であるCを受益者とする信託を設定した場合、原則としてCに贈与税が課税されることになる。
信託の場合、財産の管理・処分を任せるために財産を預けるだけでなく、信託財産の所有権を受託者に移転し、信託財産の所有権が信託受益権に転換する点に大きな特徴が有るといえる。信託には信託財産の所有権を信託受益権に転換する機能(転換機能)があるとされているが、所有権が信託受益権に転換されることにより所有権ではできなかったことが可能になる。たとえば、①非公開会社の株式について、剰余金配当請求権等の経済的権利と議決権を分離して別々の人に取得させたり(図表Ⅴ-2)、②自分の死後に財産を取得する者を指定する(図表Ⅴ-3)ことなどが可能になる。
遺言代用信託を利用した自益信託スキーム
Aの生存中 | Aの死亡後 | |
受益者 | A(100) | B(50) C(50) |
議決権行使の指図権者 | A(100) | C(100) |
(出典:中小企業庁「信託を活用した中小企業の事業承継円滑化に関する研究会における中間整理」平成20年9月5日)
転換機能以外の信託の主な機能としては、財産管理機能と倒産隔離機能が挙げられる。
委託者や受益者に代わって、専門家である受託者に財産の管理・処分を委ねることができる。
なお、受託者は、信託目的の範囲内で、これを行使しなければならない。
信託された財産は、委託者の名義ではなく、受託者の姪御となることから委託者の倒産の影響を受けない。
また、信託財産は、受託者の相続財産にはならず、さらに受託者の債権者による強制執行が禁じられているため、受託者の倒産の影響を受けない。
(1)出典:信託協会HP https://www.shintaku-kyokai.or.jp/trust/more/function.html