信託税制の概要

信託収益に対する課税の概要

信託収益に対する課税の方法

信託収益に対しては、受益者と信託財産の結びつきの程度によって、次の1~3の三つの方法のうちいずれかの方法により課税される。

  1. 受益者段階課税(発生時課税)
    信託収益の発生時に受益者に対して課税される。いわば原則的な課税方法であり、信託財産は受益者が所有しているとみなされる。
  2. 受益者段階課税(受領時課税)
    信託収益を現実に受領した時に受益者に課税される。たとえば投資信託の受益者など、受益者と信託財産の結びつきが希薄で、受益者が信託財産を所有しているとみなすのは適当でないものに適用される。
  3. 信託段階法人課税
    受託者を納税義務者として、いわば信託財産に対して法人税が課税される。受益者が存しない信託など、受益者に課税するのが適当でないと考えられるものに適用される。

信託の税法上の区分

税法上、信託については課税方法ごとに次のように区分することとされた。

  1. 受益者等課税信託
    次の2から5までのいずれにも該当しない信託をいう。財産の管理又は処分を行う一般的な信託がこれに該当し、信託財産に帰せられる収益及び費用は受益者等の収益及び費用とみなして法人税の規定を適用することとされている(法法12①)。
  2. 集団投資信託
    合同運用信託、証券投資信託等一定の投資信託及び特定公益証券発行信託をいう(法法2二十九)。受託者段階では課税されず、受益者に信託収益が分配された段階で課税されることとされている。
  3. 法人課税信託
    特定受益証券発行信託以外の受益証券発行信託、受益者等が存しない信託、法人が委託者となる一定の信託、投資信託及び特定目的信託のうち、2、4、5に該当しないものをいう(法法2二十九の二)。受託者段階で受託者の固有資産に帰属する所得とは区分して法人税を課税することとされている。
  4. 退職年金等信託
    厚生年金基金契約、確定給付年金資産管理運用契約、確定給付金基金資産運用契約、確定拠出年金資産管理契約、勤労者財産形成給付契約若しくは勤労者財産形成基金給付契約、国民年金基金若しくは国民年金基金連合会の締結した国民年金法128条3項若しくは137条の15第4項に規定する契約又は適格退職年金契約に係る信託をいう(法法12④一、法令15⑤)。拠出段階で拠出額が拠出者の損金の額に算入され、受託者段階では国民年金にかかるものを除き退職年金等積立金に対する法人税の課税対象とされ、分配段階では公的年金等に係る雑所得とされている。
  5. 特定公益信託等
    特定公益信託及び社債等の振替に関する法律2条11項に規定する加入者保護信託をいう(法法12④二)。拠出段階で初出額が寄付金(法法37⑥)又は負担金(措法66の11①五)とされ、受託者段階では課税されないこととされている。

(出典:財務省「平成19年度税制改正の解説」)

図表Ⅴ-5 信託法の改正を踏まえた信託税制の整備

信託法の改正を踏まえた信託税制の整備

(注1)点線の枠内が平成19年度税制改正により措置されるもの。原則として、新信託法の適用を受ける信託について適用。

(注2)「受益者等」とは、受益者としての権利を現に有する受益者及びみなし受益者(信託の変更権限を現に有し、かつ、その信託財産の給付を受けることとされている者)をいう。

(財務省「平成19年度税制改正パンフレット」「平成19年度税制改正の解説」を一部改編)

損益通算の規制

所得税

発生時課税される信託の受益者等である個人のその信託に係る不動産所得の損失は、その損失が生じかなったものとみなされる。

法人税

発生時課税される信託につき、受益者等である法人のその信託による損失の額のうちその信託の信託財産の帳簿価額を基礎として計算した金額を超える部分の金額は、損金の額に算入されない。

また、信託の最終的な損益の見込が実質的に欠損となっていない場合に、損失補填契約等により信託による損益が明らかに欠損とならないと見込まれるときには、その損失の全額が損金の額に算入されない。

後継ぎ遺贈型信託(受益者連続型信託)と相続税・贈与税

受益者連続型信託とは

受益者連続型信託とは、「受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定めのある信託(信託法91)」をいい、後継ぎ遺贈型信託ともいわれている。

図表Ⅴ-6 後継ぎ遺贈型信託

後継ぎ遺贈型信託

また、受益者の死亡にかかわらず、受益者指定権を有する者の定めのある信託(信託法89①)を設定することにより、受益者の死亡以外の事由を定めることによって、受益者が準じ入れ替わる信託を設定することができる。相続税法ではこれらも含めて受益者連続型信託と定義されている(相法9の3①、相令1の8)。

■相続税法における受益者連続型信託

  1. 信託法91条に規定する受益者の死亡により他の者が新たに受益権を取得する旨の定めのある信託
  2. 信託法89条1項に規定する受益者指定権等を有する者の定めのある信託
  3. 受益者等の死亡その他の事由により、当該受益者との有する信託に関する権利が消滅し、他の者が新たな信託に関する権利を取得する旨の定め(受益者等の死亡その他の事由により順次他の者が信託に関する権利を取得する旨の定めを含む。)のある信託
  4. 受益者等の死亡その他の事由により、当該受益者等の有する信託に関する権利が他の者に移転する旨の定め(受益者等の死亡その他の事由により順次他の者に信託に関する権利が移転する旨の定めを含む。)のある信託
  5. 1から4までの信託に類する信託

後継ぎ遺贈型信託の期間制限

信託期間は、信託がされたときから30年を経過したとき以後に新たに受益権を取得した受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでとされている(信託法91)。

図表Ⅴ-7 後継ぎ遺贈型信託の期間制限

後継ぎ遺贈型信託の期間制限

つまり、30年を経過した後は、受益権のあたらな承継は一度しか認められない。そのため、委託者死亡により効力が発生する遺言信託の方が、信託設定時に効力が発生する遺言代用信託よりも信託期間が長くなる。

遺留分減殺請求の対象

委託者の死亡により取得される受益権は委託者の相続財産及び遺留分算定基礎財産に算入される。一方、第一受益者の死亡により第二受益者が取得した受益権は、第一受益者の相続財産・遺留分算定基礎財産に算入されないと考えられている。(1)

(1)中小企業庁「信託を活用した中小企業の事業承継円滑化に関する研究会における中間整理」平成20年9月5日。

図表Ⅴ-8 遺留分減殺請求の対象

受益者連続型信託に対する課税の概要

受益者連続型信託では、最初の受益者(第一受益者)の死亡その他の事由により、第二受益者が新たな受益権を取得することがある。

受益者連続型信託に関する権利を受益者が適正な対価を負担せずに取得した場合は次のような課税関係が生じる。

  1. 第一受益者等は、受益権を委託者から贈与又は遺贈により取得したとみなされて、信託の効力発生時に贈与税又は相続税が課税される(相法9の2①)。
  2. 次の受益者等以降の者は、直前の受益者から贈与又は遺贈により受益権を取得したものとみなされて、贈与税又は相続税が課税される(相法9の2②)。

図表Ⅴ-9 受益者連続型信託に対する課税

受益者連続型信託に対する課税

受益権が複層化されている場合

たとえば、信託期間中に信託財産から生ずる収益については配偶者に、信託終了時に残っている信託財産は子にそれぞれ与える、という信託行為の定めを置くこともできる。このように受益権を質的に分割することを「受益権の複層化」という。受益者連続型信託の受益権が収益受益権と元本受益権の二種類である場合もある。

受益者連続型信託の課税にあたっては、収益受益権の価値は、当該受益者連続型信託の信託財産そのものの価値と等しいものとして計算され、当該元本受益権の価値はゼロとなる。なお、収益受益者が法人である場合は、故人の持つ元本受益権の価値はゼロとはならない(相法9の3①)。

下の例では、元本受益者は、信託が修了し残余財産を取得した時に収益受益者から贈与又は遺贈により当該残余財産を取得したものとみなされて、贈与税又は相続税が課税される(相法9の2④)。

図表Ⅴ-10 受益者連続型信託の元本受益権の課税時期

受益者連続型信託の元本受益権の課税時期

負担付遺贈等との比較

受益者連続型信託の場合、相続税・贈与税の課税においては、受益権の取得等の回数に応じて数度の贈与又は遺贈が擬制されることになる。そのため、例えば一度の課税で済む負担付遺贈で目的を達せられる場合は、後継ぎ遺贈型信託によらない方が課税上有利になる。

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