相続税又は贈与税の申告に誤りがあり過大納付となっていたときには法定申告期限から五年以内に国税通則法の規定により更正の請求をすることができる。また、同法は、法定申告期限後に生じた後発的事由等による場合には、それらの事由が生じた日の翌日から二ヶ月以内に更正の請求をすることができることとしている(通法23)。
(注)平成23年12月2日以後に法定申告期限が到来する国税について、更正の請求ができる期間が法定申告期限から五年に延長された。平成23年12月1日いz選に法定申告期限が到来するものは法定申告期限から一年以内とされている(通法23)。
相続税法においては、さらに未分割財産が分割されたこと、強制認知が行われ相続人に異動が生じたことなど相続税特有の事由があることから、それらの事由が生じた日の翌日から四ヶ月以内に更正の請求をすることができる特別規定を置いている(相法32)。なお、相続税法32条と国税通則法23条の規定が重複する場合は、特別法である相続税法の規定が優先する。
相続税法による更正の請求事由
(1) 共同相続人によって分割されていない財産の分割が行われ課税価格が変動したこと
(2) 強制認知の訴え又は推定相続人の廃除等の規定による認知、相続人の廃除又はその取消しに関する裁判の確定、相続回復請求権に規定する相続の回復、相続の承認及び放棄の取消しの規定による相続の放棄の取消しその他の事由により相続人に異動を生じたこと
(3) 遺留分による減殺の請求に基づき返還すべき、又は弁償すべき額が確定したこと
(4) 遺贈に係る遺言書が発見され、又は遺贈の放棄があったこと
(5) 条件を付して物納の許可がされた場合(同法48条2項の規定によりその許可が取り消され、又は取り消されることとなる場合に限る。)において、その条件に係る物納に充てた財産の性質その他の事情に関して以下に掲げるものが生じたこと
- 物納財産が土地である場合において、その土地の土壌が土壌汚染対策法2条1項に規定する特定有害物質その他これに類する有害物質により汚染されていることが判明したこと(相令8①一)
- 物納財産が土地である場合において、その土地の地下に廃棄物の処理及び清掃に関する法律2条1項に規定する廃棄物その他の物で除去しなければその土地の通常の使用ができないものがあることが判明したこと(相令8①二)
(6) 上記(1)から(5)に準ずる次の事由が生じたこと
- 相続若しくは遺贈又は贈与により取得した財産についての権利の帰属に関する訴えについての判決があったこと(相令8②一)
- 民法910条(相続の開始後に認知された者の価額の支払い請求権)の規定による請求があったことにより弁済すべき額が確定したこと(相令8②二)
- 条件付の遺贈について、条件が成就したこと(相令8②三)
(7) 相続税法4条《特別縁故者に対する財産分与》に規定する事由が生じたこと
(8) 法定申告期限までに配偶者が取得する遺産が確定していないため配偶者の相続税額の軽減(相法19の2)を受けることができず、三年以内分割見込書を提出していた場合、分割が行われた時以後においてその分割により取得した財産に係る課税価格又は相続税額が分割の行われた時前において確定していた課税価格又は相続税額と異なることとなったとき
(注)この場合、相続税法32条の規定による更正の請求のほか国税通則法23条の規定による更正の請求もできるので、その更正の請求の期限は、当該分割が行われた日から四ヶ月を経過すると相続税法27条1項に規定する申告書の提出期限から五年を経過する日とのいずれか遅い方となるのであるから留意する(相基通32-2)。
(9) 贈与税の課税価格の基礎に算入した財産のうち相続開始前三年以内の贈与税の加算(相法21の2④)の規定に該当するものがあったとき
区分 | 事由等 | 期間 | 根拠条文 | ||
国税通則法による更正の請求 | 一般的な場合 | 申告書に記載した課税価格又は税額(更正があった場合には更生後の課税価格又は税額)に誤りがあったことにより納付すべき税額が過大であるとき | 法定申告期限から五年以内(法定申告期限が平成23年12月1日以前の時は一年以内) | 通法23① | |
後発的事由による場合 | ① | 申告、更正又は決定に係る課税価格又は税額の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決等により、その事実が計算の基をとしたところと異なることが確定したとき | その確定した日の翌日から起算して二ヶ月以内 | 通法23②一 | |
② | 申告、更正又は決定に係る課税価格又は税額の計算にあたって、その申告をし又は決定を受けた者に帰属するとされていた財産が他の者に帰属する者とする当該他の者に係る故行成の更正又は決定があったとき | 当該更正又は決定があった日の翌日から起算して二ヶ月以内 | 通法23②二 | ||
③ | 法定申告期限後に生じた①又は②に類する国税通則法施行令6条に定めるやむを得ない理由があるとき | 当該事由の生じた日の翌日から起算して二ヶ月以内 | 通法23②三、通令6 | ||
相続税法による更正の請求 | 相続税又は贈与税について申告書を提出した者又は決定を受けた者で本文の「相続税法による更正の請求事由」(1)から(9)に掲げる寿有のいずれかに該当することによってその申告又は決定に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額が過大となったとき。修正申告書の提出又は更正があった場合には、修正申告又は更正に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額が過大となったとき。 | 当該事由が生じたことを知った日の翌日から四ヶ月以内 | 相法32、相令8 |
国税通則法に定める更正・決定のできる期間
(1)から(4)は平成23年12月2日以後に法定申告期限が到来する相続税には適用されない旧規定であり、平成23年12月1日以前に法定申告期限が到来している相続税に適用される(附則(平成23年)37)。なお、現行の国税通則法では、(1)から(6)のいずれにおいても、相続税の更正は法定申告期限から五年を経過した日以後においてすることはできない。
1.国税通則法70条の規定による場合(旧規定の扱い)(原則規定)
(1)期限内申告のあった場合
期限内申告に対する更正は、その更正に係る相続税の法定申告期限から三年を経過した日以後においてはすることはできない。
期限内申告があった場合において、後に修正申告があり、その修正申告に対して更正を行うとき及び更正に対し再更正を行うときも同様である。
(2)申告期限後一年以内に期限後申告書の提出があった場合(旧規定の扱い)
この場合における更正(期限後申告書の提出があったあとにされた修正申告に対する更正及び更正に対する再更正を含む。)は、その更正に係る相続税の法定申告期限から三年を経過した日以後においてはすることができない。
(3)申告期限後一年間経過日から申告期限後三年を経過する日までの間に期限後申告書の提出があった場合(旧規定の扱い)
期限内申告書又は期限後申告書の提出があった場合において、法定申告期限から三年を経過した日以後においては、全て更正できないとする三年経過日の近くに期限後申告書の提出があった場合の更正ができないこともあるので、申告期限後一年経過日から申告期限後三年を経過する日までの間に期限後申告書の提出があった場合に更正(期限後申告書の提出があったあとにされた修正申告書に対する更正及び更正に対する再更正を含む。)は、期限後申告書の提出があった日から二年を経過する日まですることができる。
(4)法定申告期限から三年を経過した日以後に期限後申告書の提出があった場合(旧規定の扱い)
更正の除斥期間を一般的に申告期限から三年とすれば、この場合には全く更正をすることができず、適正な課税ができなくなるので、このような場合の更正(期限後申告書の提出があったあとにされた修正申告に対する更正又は更正に対する再更正を含む。)は、法定申告期限から五年を経過する日まで行うことができる。
(5)減額更正の場合
納付すべき税額を減少させる更正は、法定申告期限から五年を経過した日以後においてすることはできない。
(6)決定の場合
国税通則法25条(決定)による決定又はその決定後にする更正(決定の痕に提出された修正申告に対する更正又は更正に対する再更正を含む。)は、その決定又は更正に係る相続税の法定申告期限から五年を経過した日以後はすることができない。
2.国税通則法71条による場合(期間制限の特例)
遺産分割の調停の成立や遺留分の減殺請求に基づき返還すべき又は弁償すべき額が確定したことなど相続税法32条(更正の請求の特則)に該当する事由による税務署長が職権で行う減額更正は、32条所定の事由が生じたときが国税通則法70条に規定する更正又は決定をすることができる期間の満了の日より後に到来する場合においても三年間はすることができる(通法70、71①二、通令30、通令24④、通法23②一・三、相法32、相令8②)。
3.国税徴収権の消滅時効の特則(相法50①)
更正の請求の特則(相法32一から六)に規定する事由が生じた者は期限後申告書を提出することができ、期限後申告書の提出がなければ税務署長が決定処分を行う。期限後申告又は決定処分による国税の徴収権は申告又は決定を行った日から五年間は消滅しない。
区分 | 起算日 | 期間 | 根拠条項 | |||
申告納税方式 | 通常の更正 | 期限内申告書の提出があった場合 | 法定申告期限の翌日 | 3年 | 通法70①一 | |
期限後申告書の提出があった場合 | 1年以内 | 通法70①本分の括弧書き | ||||
1年超~3年以内 | 提出があった日の翌日 | 2年 | ||||
3年超 | 法定申告期限の翌日 | 5年 | 通法70②四 | |||
決定 | 期限内申告書の提出がなかった場合 | 通法70③ | ||||
決定後にする更正の場合 | ||||||
減額更正 | 通法70②一、二 | |||||
純損失などの金額についての更正 | 通法70②三 | |||||
偽りその他の不正があった場合の更正・決定 | 法定申告期限の翌日 | 7年 | 通法70⑤一 | |||
賦課課税方式 | 通常の賦課決定 | 課税標準申告書の提出を要するもの | 提出があった場合 | 提出期限の翌日 | 3年 | 通法70①二 |
提出がなかった場合 | 5年 | 通法70④一 | ||||
課税標準申告書の提出を要しないもの | 納税義務生立の日の翌日 | 通法70④二 | ||||
減額賦課決定 | 課税標準申告書の提出を要するもの | 課税標準申告書の提出期限の翌日 | 通法70②一 | |||
課税標準申告書の提出を要しないもの | 納税義務生立の日の翌日 | 通法70④二 | ||||
偽りその他の不正があった場合の賦課決定 | 課税標準申告書の提出を要するもの | 課税標準申告書の提出期限の翌日 | 7年 | 通法70⑤二 | ||
課税標準申告書の提出を要しないもの | 納税義務生立の翌日 | 通法70⑤三 |
対象税目 | 改正前 | 改正後 (増額・減額) | ||
増額 | 減額 | |||
3年(通法70①一) | 5年(通法70②一) | 5年(新通法70①一) | ||
純損失等の金額に係る更正 | 5年(通法70②三) | 5年(通法70②二) | 5年(新通法70①一) | |
5年(通法70①一) | 5年(通法70②一) | 5年(新通法70①一) | ||
純損失等の金額に係る更正 | 7年(通法70②三) | 7年(通法70②二) | 9年(新通法70②)(注2) | |
移転価格税制に係る更正 | 6年(措法66の4⑮) | 6年(措法66の4⑮) | 6年(新措法66の4⑱) | |
相続税 | 3年(通法70①一) | 5年(通法70②一) | 5年(新通法70①一) | |
贈与税 | 6年(相法36①) | 6年(相法36①) | 6年(相法36①) | |
消費税及び地方消費税 | 3年(通法70①一) | 5年(通法70②一) | 5年(新通法70①一) | |
酒税 | 3年(通法70①一) | 5年(通法70②一) | 5年(新通法70①一) | |
上記以外のもの(注1) | 3年(通法70①一) | 5年(通法70②一) | 5年(新通法70①一) |
(注1)揮発油及び地方揮発油税、石油石炭税、石油ガス税、たばこ及びたばこ特別税、電源開発促進税、航空燃料税、印紙税(印11、12に掲げるもの)、地価税をいう。
(注2)平成20年4月1日以後に終了した事業年度又は連結事業年度において生じた純損失等の金額から適用される(新通法附則37)。
区分 | 通常の過少申告・無申告の場合 | 脱税の場合 | ||
更正 | 5年(通法70①一)(注) | 7年(通法70④) | ||
決定 | 5年(通法70①一)(注) | |||
純損失等の金額に係る更正 | 5年(法人税については9年)(通法70①一、②) | |||
増額賦課決定 | 課税標準申告書の提出を要するもの | 提出した場合 | 3年(通法70①) | |
不提出の場合 | 5年(通法70①二) | |||
課税標準申告書の提出を要しないもの | 5年(通法70①三) | |||
減額賦課決定 | 5年(通法70①二、三) |
(注)移転価格税制に係る法人税の更正・決定等及び贈与税の更正・決定等については6年(措法66の4⑰、相法36①)。また、更正の除斥期間終了の6月以内になされた更正の請求に係る更正又はその更正に伴って行われる加算税の賦課決定については、当該更正の請求があった日から6月を経過する日まですることができる(通法70③)。
(出典:税大校本)