個人が、土地、建物などの資産を法人に寄附(贈与・遺贈)した場合には、これらの資産は寄附時の時価で譲渡があったものとみなされ、これらの資産の取得時から寄附時までの値上がり益に対して所得税が課税される(所法59①一)。
ただし、これらの資産を公益法人等に寄附した場合において、その寄附が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与することなど一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときは、この所得税について非課税とする制度が設けられている(措法40)。
国税庁長官の承認申請の対象となる譲渡資産は次のとおりである。
山林とは販売を目的として伐採適齢期まで相当長期間にわたり管理育成を要する立木の集団をいう。販売を目的として育成している立木や苗木は、事業所得の棚卸し資産となり山林に該当しない。
譲渡所得の基因となる資産は、棚卸し資産、棚卸し資産に準ずる資産、山林及び金銭債権以外の一切を資産をいう。金銭債権は譲渡所得の基因となる資産ではないのでみなし譲渡の対象となる資産には該当しない。金銭債権の譲渡により生じた利益は、元本価値の増加というよりは金利に相当するものであると考えられているからである。借地権の設定は含まず、借地権の無償返還は59条の対象となる場合がある(注)。国外にある土地、借地権等、建物、附属設備、構築物を除く(措法40①、措令25の17②)。
(注)所得税基本通達59-5《借地権等の設定及び借地の無償返還》。所得税法59条1項に規定する「譲渡所得の基因となる資産の移転」には、借地権等の設定は含まれないのであるが、借地の返還は、その返還が次に掲げるような理由に基づくものである場合を除き、これに含まれる(昭56直資3-2、直所3-3追加)。
有価証券の譲渡による所得のうち、公社債等の譲渡による所得は非課税(措法37の15)となるが、それ以外の有価証券を不お陣に贈与又は遺贈した場合には、原則として承認申請の対象となる。
(注)平成28年1月以降は、公社債等に対する課税方式が、上場株式等と同様、税率が20%(所得税15%、住民税5%)の申告分離方式に変更された上で、公社債等の譲渡所得が非課税から課税とされる一方、上場株式等と損益通算できる範囲が公社債等にまで拡大される。この結果、平成28年1月以降は、全ての有価証券につき、原則として承認申請の対象となる。
次に掲げる所得については、所得税を課さない。
次に掲げる金額は、所得税法の規定の適用については、ないものとみなす。
次に掲げる所得については、前条第1項の規定は、適用しない。
前項各号に規定する公社債の譲渡については、前条第2項の規定は、適用しない。
国税庁長官の承認を受けるための一定の要件(承認要件)は、次のとおりである(法人税法別表第一に掲げる独立行政法人、国立大学法人、大学共同利用機関法人、地方独立行政法人(介護老人保健施設、公立大学など一定のもの)などに対する寄附である場合には、【承認要件2】を具備すれば足りる)。(措令25の17⑤)。また、私立学校法人助成法に規定する大学又は高等専門学校を設置する学校法人に対する贈与、遺贈については別途異なる要件が定められている(措令25の17⑦、措規18の19④)。
贈与又は遺贈が、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献、その他公益の増進に著しく寄与すること(措令25の17⑤一)
この要件は、公益を目的とする法人に対する贈与又は遺贈で、公益の増進に著しく寄与する贈与又は遺贈であるかどうかにより判定するが、公益法人等の事業活動が次の1から4までの全てに該当するときは、この要件を満たすものとして取り扱われる(租税特別措置法第40条第1項後段の規定による譲渡所得等の非課税の取扱いについて:例規通達:昭和55年4月23日直資2-181(以下、「40条通達」という。))。なお、贈与、遺贈が法令の規定に違反したものであるときは、この要件を満たさないこととされている(40条通達11)。
受贈法人が営む公益時報の規模が事業の内容に応じ、その事業を営む地域又は分野において社会的存在として認識される程度の規模を有すること。なお、たとえば、学校教育法や社会福祉法に規定する一定の事業、宗教の普及や信者の教化育成に寄与する事業、30人以上の学生等に対して学資の支給若しくは貸与を行う事業又は科学技術その他の学術に関する研究者に助成金を支給する事業などが受贈法人の主たる目的として行われる場合には、その公益目的事業は社会的存在として認識される程度の規模を有するものとして取り扱われる(40条通達12(1))。
受贈法人の事業の遂行により与えられる公益の分配は、特定の者に限られることなく、適正に行われていること(40条通達12(2))。
贈与又は遺贈を受ける法人の公益目的事業について、公益の対価がその事業の遂行に直接必要な経費と比べて過大でないこと、その他当該事業の経営が営利企業的に行われている事実がないこと(40条通達12(3))。
受贈法人の事業の運営につき、法令に違反する事実その他公益に反する事実がないこと(40条通達12(4))。
贈与又は遺贈に係る財産が贈与又は遺贈があった日から2年を経過する日までの期間内(贈与又は遺贈を受けた土地の上に建設する当該贈与又は遺贈に係る公益を目的とする事業の用に供する建物の建設に要する期間が通常2年を越えることその他やむを得ない事情があるため、当該期間内に財産の贈与又は遺贈を受けた法人の事業の用に供することが困難である場合には、国税庁長官が認める日までの期間)に、財産を受けた法人の贈与又は遺贈に係る公益を目的とする事業の用に直接供され又は供される見込であること(措法40①、措令25の17⑤二)
公益法人に贈与・遺贈された財産は、その贈与を受けた公益法人が直接、公益を目的とする事業の用に供さない場合には非課税とされない。ただし、次に挙げるやむを得ないと認められる理由がある場合に限り、その贈与に係る財産の譲渡を認めることとされている(措令25の17③)
なお、株式、著作権などのように、財産の性質上その財産を直接公益事業に供されないものは、毎年の配当金、印税収入などその財産から生ずる果実の全部が当該公益事業の用に供されるかどうかにより、その財産が当該公益事業の用に供されるかどうかを判定して差し支えないものとされている。この場合において、各年の配当金、印税収入などの果実の全部が当該公益事業の用に供されるかどうかは、たとえば、学校援護法人によって学資として支給され、研究助成を行う法人によって助成金として支給されるなど、果実の全部が直接、かつ、継続して、公益事業の用に供されるかどうかにより判定される(40条通達13)。
なお、次のような使い方は寄贈された財産が公益事業に使われているとはいえないとされていることに注意が必要である。
公益法人に財産を贈与又は遺贈することにより、贈与者・遺贈者の所得税の負担を不当に減少させ贈与者・遺贈者又はその親族等の相続税や贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないこと(措令25の17⑤三)
次の要件(1~4)を満たすときには、贈与者・遺贈者の所得税の負担を不当に減少させ又は贈与者・遺贈者又はその親族等の相続税や贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないと認められる(措令25の17⑥)。また、受贈法人の理事、監事、評議員その他これらの者に準ずる者や職員の中に、贈与・遺贈した者又はこれらの者と親族その他特殊関係がある者が含まれておらず、かつ、これらの者が受贈法人の財産の運用及び事業の運営について私的に支配している事実がなく、将来においても私的に支配する可能性がないと認められる場合には、次の2から4までの要件に該当していれば、所得税又は想像税の負担を不当に減少させる結果とならないと認められるとして取り扱われる(40条通達17ただし書き)。
平成15年の税制改正で、私立大学等を設置する学校法人に対する財産の贈与又は遺贈に係る国税庁長官の承認手続等の特例が次のとおり創設された。
その贈与又は遺贈が、法律の規定により自主的にその財政基盤の強化を図るべき事とされている私立大学等を設置する学校法人で文部科学省の定める基準に従い会計処理を行う者に対する者である場合の国税庁長官の承認要件は次に掲げる要件とすることとされた(措令25の17⑦、措規18の19④~⑨)。
この結果、私立大学等(私立学校振興助成法に規定する大学又は高等専門学校を設置する学校法人)に贈与又は遺贈したケースならば、受贈者たる私立大学法人等は、受贈財産をいったん、基金に組み入れた後に譲渡し、譲渡代金を基金に組み入れることにより租税特別措置法40条の要件を満たすこととなる。国立大学法人では、この規定がないので、国立大学法人に対し現物資産を贈与又遺贈する場合には、譲渡所得の課税対象となる可能性が高いことに留意する必要がある。
平成15年4月28日付で文部科学省私学部長通知「文部科学大臣所轄学校法人への現物寄附に係る租税特別措置法第40条第1項後段の規定に基づく国税庁長官の非課税承認を受けるための要件の緩和等について(通知)15文科高第103号」が発遣されている。以下の記載は主に同通達による。
平成15年4月1日より文部科学大臣所轄学校法人に対する現物寄附について、国税庁長官の承認を受けるための要件が緩和されると共に、手続が簡素化された。今般の変更点については下記の通りで有る。
a 私立学校法人助成法に規定する大学又は高等専門学校を設置する学校法人に対する現物寄附については、国税庁長官の承認を受けるための申請書にbの書類を添付することにより、承認要件を次のとおりとすることができる。
ただし、申請書の提出時に1の要件に該当していなかった場合、又は申請書の提出時に1の要件に該当しないこととなることが明らかであると認められ、かつ、提出後aの要件に該当しないこととなった場合には、租税特別措置法第40条第2項に基づき承認が取り消されることがある。
b この特例を受けるために、寄附者が国税庁長官の承認を受けるための申請書には、寄附を受ける学校法人から交付された次の書類を添付する必要があること。
c この特例を受けて国税庁の承認を受けた場合には、寄附を受けた事業年度に寄附財産を基本金に組み入れたことを確認できる基本金明細表を、当該事業年度終了日以後3ヶ月以内に税務署長を経由して、国税庁長官に提出しなければならず、この提出がない場合には、租税特別措置法40条第2項に基づき承認が取り消されることがあること。
したがって、基本金明細表の作成にあたっては、この特例を受けた寄附財産が明確になるよう、この特例を受ける資産である旨を摘要の欄に記載すること。
d この特例を受けるためには、譲渡を予定している場合であっても、寄附を受けた財産について一旦基本金に組み入れることが必要であり、その旨の決定がb2の議事録に掲載されている必要があること。なお、「寄附の受入れ」、「基本金への組入」、「譲渡の決定」、「譲渡により取得した資産の基本金への組入の決定」を同時に行うことは可能であり、その旨の決定を理事会において行う必要があること。
e 一旦基本金に組み入れた寄附財産について、国税庁長官の承認を受けた後に、譲渡及び譲渡による収入により取得した財産を基本金に組み入れる際に、改めて国税庁長官の承認を得る必要はないこと。ただし、基本金の管理状況を記録しておくため、当該決定に係る議事録は作成しておく必要があること。
f 上述bの書類を添付した申請書の提出があった場合において、提出の比からヶ月以内に承認又は承認をしない旨の決定がなかった場合には、承認があったものとみなされること。このため、申請の期限(寄附後4ヶ月以内)を厳守すると共に、下記申請書及び添付書類について遺漏の内容にする必要がある。
g この特例を受ける場合に、提出すべき申請書及び添付書類(bに掲げる書類を含む。)は図表Ⅳ-1の通りであり、下記に記載のない各表等は、原則として不要である。
表番号 | 内容 | 添付書類 |
---|---|---|
第1表 | 寄附者の住所、氏名、生年月日、職業等 寄附を受けた学校法人の住所、名称、設立年月日等 | 寄附者が死亡している場合、寄附者と申請者の関係(親子等)が確認できる戸籍謄本 |
第2表 | 寄附を受けた学校法人の設立年月日及び事業の目的・寄附の目的 | 学校法人の登記簿謄本 |
第3表 | 寄附財産の明細及び使用目的 (使用目的は、基本金に組み入れる旨記載すれば足り、付表1・2の添付は不要。) | 寄附を申し込んだ事実が確認できる書類(寄附申込書、遺言書の写し等) 寄附財産の明細を確認できる書類(寄附財産に応じたもの。登記簿謄本等。) |
第5表 第6表 | 理事、監事及び評議員の氏名及び寄附者との関係 (「氏名」及び「寄附者との親族その他特殊関係」の欄のみの記載で可。) (第5表、第6表に代えて、既存の理事、監事及び評議員の名簿に寄附者との関係を加筆したものでも可。) | 理事、監事及び評議員の名簿(住所が分かるもの。第5表、第6表の「住所」の欄に記載があれば添付は不要。) |
第18表 | 添付書類一覧表 | |
その他 ①承認申請補及び添付書類の記載事項が事実に相違ない旨の確認書 ②当該寄附をした者が寄附を受ける学校法人の理事、監事及び評議員並びにその親族等に該当しないことを誓約した旨及び当該寄附をした者が寄附を受ける学校法人の理事、監事及び評議員並びにその親族等に該当しないことの確認をした旨を記載した書類 ③寄附の受入れ及び寄附財産の基本金への組入について理事会等において決定されていることを証明するための議事録その他これに相当する書類の写し(他の議題の部分を省略したもので可。ただし、理事会等において決定した日が確認できる部分は省略不可。) ④学校法人会計基準に準拠し処理されている旨を確認した監査報告書の写し(ない場合には、私立学校振興助成法14条1項に規定する文部科学大臣の定める基準(学校法人会計基準)に従い会計処理を行う旨の確認書又はその旨が記載されている寄附行為の写し) |
Q 公益財団法人の理事(10名)に、財産の寄附者と寄附者が代表取締役を務める株式会社の役員2名及びその従業員1名が含まれていますが、この場合、受贈法人の理事の構成は親族等制限規定に抵触することになりますか。
A 受贈法人の機関の構成が親族等制限規定に抵触するかどうかの判定は、役員等とその親族等の合計数が、それぞれの役員等の数の3分の1以下であるかどうかにより行われることとなりますが、この場合の親族等は、親族及びその者と特殊の関係があるものを指し、特殊の関係があるものには、理事が役員となっている他の法人の役員や使用人などが含まれます。
したがって、照会の場合、受贈法人の理事に、財産の寄附者と寄附者が代表取締役を務める株式会社の役員2名及びその従業員1名が含まれており、親族等の関係を有するものの合計数が4名となることから、理事の構成が親族等制限規定に抵触することになります。
国税ホームページ質疑応答事例
【関連法令通達】
租税特別措置法40条
租税特別措置法施行令25条の17第6項1号
イ 次の承認取消事由に該当する場合は、贈与又は遺贈した個人に譲渡所得、山林所得又は雑所得が課税される(措法40②、措令25の17⑩⑫)。課税年分は、非課税承認が取り消された日の属する年分(その日までに贈与をした者が死亡していた場合には、その死亡の日の属する年分)又は遺贈のあった日の属する年分とされている(措法40②、措令25の17⑩⑫)。
ロ 次の承認取消事由に該当する場合は、贈与又は遺贈を受けた法人を個人とみなして譲渡所得、山林所得又は雑所得が課税される(措法40③、措令25の17③、措規18の19⑩)。課税年分は、非課税承認が取り消された日の属する年分(その日までに贈与をした者が死亡していた場合には、その死亡の日の属する年分、遺贈があった場合には遺贈のあった日の属する年分)とされる(措法40③後段、措令25の17⑮)。
Q 特別養護老人ホームを設置運営する社会福祉法人に土地を寄附し、その土地を社会福祉法人が特別養護老人ホームの敷地として使用していましたが、社会福祉法人の規模縮小に伴い、その特別養護老人ホームが閉鎖され、土地は貸駐車場として使用されています。
この場合、租税特別措置法第40条の非課税承認が取り消され、所得税が課税されることとなりますか。
A 受贈法人が、租税特別措置法第40条の非課税承認に係る寄附財産を受贈法人の公益目的事業の用に直接供しなくなったなど一定の事実が生じた場合には、非課税承認が取り消されることとなります。
この場合、受贈法人が寄附財産を受贈法人の公益目的事業の用に直接供する前に非課税承認が取り消されたときは、寄附者に対して所得税が課税されますが、公益目的事業の用に直接供した後に非課税承認が取り消されたときは、受贈法人に対して所得税が課税されます。
したがって、照会の場合は、受贈法人が寄附財産を公益目的事業の用に直接供した後に非課税承認が取り消されることになりますので、受贈法人に対して所得税が課税されます。
国税ホームページ質疑応答事例
【関連法令通達】
租税特別措置法40条2項、3項
租税特別措置法施行令25条の17第10項、11項、12項、13項、14項、15項
Q 租税特別措置法第40条の規定の適用を受ける寄附財産を受贈法人が譲渡し、その譲渡代金をもって他の資産を取得した場合、引き続きこの規定の適用が受けられますか。
A 受贈法人が、租税特別措置法第40条の規定の適用を受けた寄附財産を譲渡した場合、次に掲げる要件を全て満たせば、引き続きこの規定の適用が受けられます。
1 譲渡する寄附財産は、受贈法人の公益目的事業の用に2年以上直接供していること。
2 寄附財産の譲渡による収入金額の全部に相当する金額をもって他の資産(以下「買換資産」といいます。)を取得すること。
3 買換資産は、受贈法人の寄附財産に係る公益目的事業の用に直接供することができる寄附財産と同種の資産、土地及び土地の上に存する権利であること。
4 買換資産は、原則として、譲渡に日の翌日から1年を経過する日までの期間内に、受贈法人の公益目的事業の用に直接供すること。
5 受贈法人が、寄附財産の譲渡の日の前日までに、その譲渡の日など一定の事項を記載した書類を、受贈法人の所在地を所轄する税務署長に提出すること。
国税ホームページ質疑応答事例
【関連法令通達】
租税特別措置法40条5項
租税特別措置法施行令18条の19第11項、12項
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