POINT
公益の増進に寄与するところが著しいと認められる事業(以下、「高度の公益事業」という。)のみを専念して行う個人が相続又は遺贈により、又は高度の公益事業のみを目的事業として行う社団・財団が遺贈により、取得した財産で公益を目的とする事業の用に供することが確実なものは非課税財産とされ相続税は課税されない(相法12①三)。
ただし、相続又は遺贈により取得した財産が相続税の非課税財産となるためには、事業者が個人の場合には、受遺者、その親族、その他その者と相続税法64条1項に規定する特別の関係がある者(以下、「特別関係者」という。)に対し高度の公益事業から特別の利益を与えるようなことがない場合に限られ、代表者又は管理者の定めのある人格なき社団・財団(以下、「社団等」という。)の場合には、社団等が一族支配されていないこと及び社団等が営む高度の公益事業から役員や遺贈者の親族・特別関係者が特別の利益を得ていない場合に限られる(相法12①三、相令2)。
また、相続又は遺贈を受けた日から二年を経過した日において相続又は遺贈により取得した財産を高度の公益事業の用に供していないときは非課税財産とはならない(相法12②)。
公益事業とは不特定多数の者の利益に寄与する事業をいう。公益事業を行い個人に賛同し遺贈を行っても受遺者に課税すると、民間人による公益事業の保護育成を阻害することとなる。また、公益事業を営んでいる個人が亡くなり相続が開始した場合、公益事業用財産が課税対象となると事業を承継した相続人の事業運営上の負担となる。そこで、相続税法は、公益を目的とする事業を行う者で、その事業活動により公益の増進に寄与することが著しいと認められる者が相続又は遺贈により取得した財産で、その公益を目的とする事業の用に供することが確実なものは、相続税の課税価格に算入しないこととしている(相法12①三)。なお、本条には死因贈与は含まれていないことに注意が必要である。
対象となる公益事業を行う者は、相続税の納税義務者である自然人又は社団等に限られる。持分の定めのない法人は、遺贈者の親族その他特別関係者の相続税又は贈与税の負担を不当に減少する結果となる場合に限り、相続税の納税義務者となる。持分の定めのない法人が相続税の納税義務者となるときは、持分の定めのない法人が相続税の納税義務者となるときは、同時に本規定の除外規定に抵触するので、受遺財産が非課税財産となることはない。
公益の増進に寄与するところが著しいと認められる事業とは、公益を目的とする事業のうち、事業の種類、規模及び運営がそれぞれ次のイからハまでに該当すると認められる事業をいう。
(イ) 公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成18年法律第49号)2条4号《定義》に規定する公益目的事業
(ロ) 社会福祉法(昭和26年法律第45号)2条2項各号及び3項各号《定義》に掲げる事業
(ハ) 更生保護事業法(平成7年法律第86号)2条1項《定義》に掲げる更生保護事業
(ニ) 学校教育法(昭和22年法律第26号)1条《学校の範囲》に規定する学校を設置運営する事業
(ホ) 育英事業
(ヘ) 科学技術に関する知識の普及又は学術の研究に関する事業
(ト) 図書館若しくは博物館又はこれらに類する施設を設置運営する事業
(チ) 宗教の普及その他教化育成に寄与することとなる事業
(リ) 保健衛生に関する知識の普及その他公衆衛生に寄与することとなる事業
(ヌ) 政治資金規正法(昭和23年法律第194号)3条《定義等》に規定する目的のために政党、政治団体の行う事業
(ル) 公園その他公衆の利用に供される施設を設置運営する事業
(ヲ) (イ)から(ル)までに掲げる事業を直接助成する事業
事業の内容に応じ、その事業を営む地域又は分野において社会的存在として認識される程度の規模を有しており、かつ、その事業を行うために必要な施設その他の財産を有していること。
(イ) 事業の遂行により与えられる公益が、それを必要とする者の現在又は将来における勤務先、職業等により制限されることなく、公益を必要とする全ての者(やむを得ない場合においてはこれらの者から公平に選出された者)に与えられるなど公益の分配が適正に行われること。
(ロ) 公益の対価は、還俗として無料(事業の維持運営についてやむを得ない事情があって対価を徴収する場合においても、その対価は事業の与える公益に比し社会一般の通念に照らし著しく低廉)であること。
専ら公益の増進に寄与するところが著しいと認められる事業を行う者とは、その者が個人である場合には、相続開始時点において現に公益の増進に寄与するところが著しいと認められる公益事業のみを専念して行っている者をいうが、相続又は遺贈により財産を取得した者が相続開始前から公益事業を行っていない場合であっても、財産を取得すると同時に被相続人の公益事業を承継して行うときは、取得財産は相続税の非課税規定に該当する者とされる(相令2、相基通12-5)。
ただし、次のような場合には非課税規定は適用されない。
なお、公益事業を行う者が次の者(以下、「公益事業者等」という。)に対しその事業に係る施設の利用、余裕金の運用その他その事業に関し特別の利益を与えるような場合は、公益事業を行っているとしても、その事業を私的に利用している局面も認められるため非課税財産として扱わない旨定められている(相令2ただし書き)。
特別関係者とは、①内縁関係にある者及びその者の親族で生計を一にしている者、②使用人及び使用人以外の者で当該個人から生計をみてもらっている者並びにそれらの親族で生計を一にしている者をいう(相令31)。
特別の利益を与えることとは、次のような場合をいう。
公益事業を行う者で財産の寄贈を受け、相続税の納税義務者となる者は個人に限られない。社団等が遺贈を受けた場合は、相続税法では個人とみなされ相続税の納税義務を負う(相法66)。これらの社団等が遺贈を受けたときに受遺財産が非課税財産となるためには、遺贈を受けたときに、公益の増進に寄与するところが著しいと認められる公益事業(高度の公益事業)のみをその目的事業として行う社団等でなければならない(相法21の3①三、昭和39直審(資)24「3」)。
受遺者である社団等が次のとおり、特定の者に支配されていたり、施設の利用、余裕金の運用など事業運営に関連し、関係者に対し特別の利益を与えているような場合は、社団等が公益事業を行っているといっても、事業が私的に利用されている面も認められるため非課税財産として扱わない旨定められている(相令4の5、相令2ただし書き)。
特別関係者とは、①内縁関係にある者及びその者の親族で生計を一にしている者、②使用人及び使用人以外の者で当該個人から生計をみてもらっている者並びにそれらの親族で生計を一にしている者をいう(相令31)。
(注1) 事業の運営の基礎となる重要事項とは、役員その他の機関の構成、その選任方法の他、次に掲げる事項がこれに該当するものとして取り扱われている(昭55直資2-182改正)。
(注2) 特別関係者の意思に従ってなされていると認められる事実があることとは、社団等の運営の基本となる規約等に次の(1)から(4)までの事項が定められていないこと又は社団等の事績に(5)から(7)までの事実が認められることをいうものとして取り扱うとされている(昭55直資2-182改正)。
(注3) 社団等が特別の利益を与えることとは、社団等の機関の地位にある者、遺贈をした者又は特別関係者(以下、合わせて「運営者等」という。)について、たとえば、次に掲げる事実がある場合又はその事実があると認められる場合がこれに該当するものとして取り扱われている。(昭55直資2-182改正)
遺贈により取得した財産は、原則として遺贈により取得した財産そのものをいうのであるが、高度の公益事業を行う者が社団等である場合には、次に掲げる財産は、これに該当するものとして取り扱われる。
公益を目的とする事業の用に供することが確実なものとは、その財産について、相続開始の時においてその公益を目的とする事業の用に供することに関する具体的な計画があり、かつ、公益を目的とする事業の用に供される状況にあるものをいう。相続又は遺贈により取得した財産は、専ら高度の公益事業の用に供されることが必要であり、個人生活の用に供されるものや、個人の生活の用と併用される場合には、非課税とはならない(相基通12-3)。
高度の公益事業を行う被相続人又は遺贈者から公益事業の用に供されている財産を相続又は遺贈により取得する場合において、取得財産が非課税財産に該当するためには、財産を取得する者が相続開始前から高度の公益事業を行う者であることが必要である。これは相続税の納税義務は、相続又は遺贈による財産の取得の時に成立する(通法15②四)とされていることに基づくものである(『相続税法基本通達逐条解説(平成22年版)』p.254)。しかしながら、高度の公益事業の用に供されている財産を相続又は遺贈により取得した者が、財産を取得すると同時に公益事業を受け継いで行う場合には非課税財産として取り扱われる(相基通12-5)。
相続又は遺贈により取得した財産は、公益を目的とする事業の用に供することが確実なものでなければならない。事業の用に供することが確実であるかどうかは、次により判断することとされている。
高度の公益事業を行う者が相続又は遺贈により取得した財産を取得から二年経過した日においてなおそのように供していない場合には非課税財産とならない。
次の個別通達は贈与税に関する通達であり、同通達には相続、遺贈についての記載はないが、贈与税の規定である相続税法施行令4条の5は、相続に係る同様の公益事業用財産の非課税規定である施行令2条を準用しているので、遺贈固有の規定である相続税法基本通達12-3から12-7と内容が重複しない1から8までは遺贈にも準用されると解される。
昭39直審(資)24
1 相続税法(昭和25年法律第73号。以下「法」という。)第21条の3第1項第3号に規定する「公益を目的とする事業を行う者で政令で定めるもの」とは、財産取得の時において相続税法施行令(昭和25年政令第71号。以下「法施行令」という。)第4条の5において準用する法施行令第25条に規定する公益の増進に寄与するところが著しいと認められる事業で、かつ、当該事業の運営等について同条各号に掲げる事実のないもの(以下11までにおいて、「法施行令第2条の規定に該当する事業」という。)を行っている者をいうのであるが、次に掲げる者もこれに該当するものとして取り扱うものとする。(昭55直資2-182改正)
2 公益を目的とする事業のうち、事業の種類、規模及び運営がそれぞれ次の(1)から(3)までに該当すると認められる事業は、「公益の増進に寄与するところが著しいと認められる事業」に該当するものとして取り扱う。(昭55直資2-182、平8課資2-116、平12課資2-258改正)
(1)事業の種類
イ 公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成18年法律第49号)第2条第4号《定義》に規定する公益目的事業
ロ 社会福祉法(昭和26年法律第45号)第2条第2項各号及び第3項各号《定義》に掲げる事業
ハ 更生保護事業法(平成7年法律第86号)第2条第1項《定義》に掲げる更生保護事業
ニ 学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条《学校の範囲》に規定する学校を設置運営する事業
ホ 育英事業
ヘ 科学技術に関する知識の普及又は学術の研究に関する事業
ト 図書館若しくは博陸奥間又はこれらに類する施設を設置運営する事業
チ 宗教の普及その他教化育成に寄与することとなる事業
リ 保健衛生に関する知識の普及又はその他公衆衛生に寄与することとなる事業
ヌ 政治資金規正法(昭和23年法律第194号)第3条《定義等》に規定する目的のために政党、政治団体の行う事業
ル 公園その他公衆の利用に供される施設を設置運営する事業
ヲ イからルまでに掲げる事業を直接助成する事業
(2)事業の規模
事業の内容に応じ、その事業を営む地域又は分野において社会的存在として認識される程度の規模を有しており、かつ、その事業を行うために必要な施設その他の財産を有していること。
(3)事業の運営
イ 事業の遂行により与えられる公益が、それを必要とする者の現在又は将来における勤務先、職業等により制限されることなく、公益を必要とする全ての者(やむを得ない場合においてはこれらの者から公平に選出された者)に与えられるなど公益の分配が適正に行われること。
ロ 公益の対価は、原則として無料(事業の維持運営についてやむを得ない事情があって対価を徴収する場合においても、その対価は事業の与える公益に比し社会一般の通念に照らし著しく低廉)であること。
3 法施行令第4条の5において準用する法施行令第2条に規定する「専ら…公益の増進に寄与するところが著しいと認められる事業を行う者」とは、その者が個人である場合には公益の増進に寄与するところが著しいと認められる事業(以下6までにおいて「高度の公益事業」という。)のみを専念して行う者をいい、その者が法施行令第2条に規定する社団等(以下8までにおいて「社団等」という。)である場合には高度の公益事業のみをその目的事業として行う社団等をいうものとして取り扱う。(昭55直資2-182改正)
4 法施行令第4条の5において準用する法施行令第2条第1号に規定する「特別の利益を与えること」とは、高度の公益事業を行い者に対し財産を贈与(贈与をした者の死亡により効力を生ずる贈与を除く。以下同じ。)した者、当該事業を行う者又はこれらの者の親族その他これらの者と法施行令第2条に規定する特別関係がある者(以下7までにおいて、当該「親族その他これらの者と法施行令第2条に規定する特別関係がある者」を「特別関係がある者」という。)について、例えば、次に掲げる事実があると認められる場合がこれに該当するものとして取り扱う。(昭55直資2-182改正)
5 法施行令第4条の5において準用する法施行令第2条第2号に規定する「事業の運営の基礎となる重要事項」とは、役員その他の機関の構成、その選任方法の他、次に掲げる事項がこれに該当するものとして取り扱う。(昭55直資2-182改正)
6 法施行令第4条の5において準用する法施行令第2条第2号に規定する「特別関係がある者の意思に従ってなされていると認められる事実があること」とは、社団等の運営の基本となる規則、規約その他の規定(以下6において「規約等」という。)に次の(1)から(4)までの事項が定められていないこと、又は社団等の事績に(5)から(7)までの事実が認められることをいうものとして取り扱う。(昭55直資2-182改正)
7 法施行令第4条の5において準用する法施行令第2条第3号に規定する「特別の利益を与える」とは、社団等の機関の地位にある者、贈与をした者又はこれらの者と特別関係がある者について、例えば、次に掲げる事実がある場合又はその事実があると認められる場合がこれに該当するものとして取り扱う。(昭55直資2-182改正)
8 「贈与により取得した財産」とは、原則として贈与により取得した財産そのものをいうのであるが、法施行令第2条の規定に該当する事業を行う者が社団等である場合には、次に掲げる財産は、これに該当するものとして取り扱う。
12-3
法第12条第1項第3号に規定する、「当該公益を目的とする事業の用に供することが確実なもの」とは、その財産について、相続開始の時において当該公益を目的とする事業の用に供することに関する具体的計画があり、かつ、当該公益を目的とする事業の用に供される状況にあるものをいうものとする。したがって、個人生活の用に供されるものは、これに該当しないことに留意する。
12-4
法第12条第1項第3号に規定する、「宗教。慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う者」から当該事業の用に供されている財産を相続又は遺贈によって取得した場合において、その取得した者が公益事業を行わないときはもちろんのこと、二年以内に公益事業を行うときであっても、当該財産を当該事業の用に供していないときは、相続税の課税価格に算入するものであるから留意する。
12-5
法第12条第1項第3号に規定する、「宗教。慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う者」から当該事業の用に供されている財産を相続又は遺贈によって取得した者が、当該財産を取得すると同時に当該事業を受け継いで行う場合には、当該公益を目的とする事業の用に供されている財産については法第12条第1項第3号に掲げる財産に該当するものとして取り扱うものとする。ただし、次の(1)又は(2)に該当する場合においては、この限りでない。(昭57直資2-177改正)
12-6
法第12条第2項(法第21条の3第2項の規定によりこの規定を準用する場合を含む。)に規定する「当該財産を当該公益を目的とする事業の用に供していない場合」とは、財産を取得した者が当該財産を現実に当該公益を目的とする事業の用に供している場合以外の場合ををいうのであるから、当初当該財産を公益を目的とする事業の用に供していても二年を経過した日現在において、その用に供しなくなった場合をも含むことに留意する。
12-7
法第12条第2項の規定により、財産を取得した日から二年を経過した日において、なお当該財産を法第12条第1項第3号に規定する公益を目的とする事業の用に供していないために、当該財産の価額を課税価格に算入することになった場合においては、当該財産を取得したときの時価によって評価し、相続税の課税価格の計算の基礎に算入するものとする。この場合において、その者については延滞税及び各種加算税の納付義務があるのであるから留意する。(昭46直審(資)6改正)