POINT
公益の増進に寄与するところが著しいと認められる事業(以下、「高度の公益事業」という。)のみを専念して行う個人及び高度の公益事業のみを目的事業として行う代表者又は管理者の定めのある人格なき社団・財団(以下「社団等」という。)が個人から贈与により取得した財産で公益を目的とする事業の用に供することが確実なものは非課税財産とされ贈与税は課税されない(相法21の3)。
ただし、贈与財産が贈与税の非課税財産となるためには、事業者が個人の場合には、受贈者、その親族、特別関係者に対し高度の公益事業から特別利益を与えるようなことがない場合に限られ、事業者が社団等の場合には、社団等が一族支配されていないこと及び社団等が営む高度の公益事業から役員や贈与者の親族・特別関係者が特別の利益を得ていない場合に限られる(相法21の3①三、相令4の5)。
また、受贈者が贈与を受けた日から二年を経過した日において受贈財産を高度の公益事業のように供していないときは非課税財産とはならない(相法21の3②)。
個人が公益事業に賛同し、公益事業を行う者に贈与(寄付)を行ったときに受贈者に贈与税を課税すると、寄付の効果が薄くなり、民間人による公益事業の保護育成を阻害することとなる。公益事業とは不特定多数の者の利益に寄与する事業をいうが、不特定多数の者の利益に寄与するといっても、その内容(公益性・公共性)は千差万別である。相続税法は、宗教、慈善、学術その他高度の公益を目的とする事業を行う者で、事業の種類、規模及び運営からみて公益の増進に寄与することが著しいと認められる事業を行う者が贈与により取得した財産で、その高度の公益を目的とする事業の用に供することが確実なものは、贈与税の課税価格に算入しないこととしている。単に公益事業というだけでは、非課税要件を充足しない場合があるので注意が必要である(相法21の3①三、相令4の5、相令2、昭和39年6月9日付 直審(資)24、直資77:贈与税の非課税財産《公益を目的とする事業の用に供する財産に関する部分》及び持分の定めのない法人に対して財産の贈与等があった場合の取扱いについて)。
公益の増進に寄与するところが著しいと認められる事業につき、相続税法は、「宗教、慈善、学術その他公益を目的とする事業」とだけ規定し、事業の種類等を特に規定していないが(相法21①三、相令4の5、相令2)、国税庁は、後述するように、通達で①事業の種類、②事業の規模、③事業の運営の三要件を具体的に明らかにしている。
事業主体として、公益の増進に寄与する事業を行う者とは、公益事業のみを専念して行うものであるが、事業施設の利用、余裕金の運用など事業運営に関連し、関係者に対し特別の利益を与えているような場合は、高度の公益事業に専念している場合でも、事業が私的に利用されている面も認められるため非課税財産として扱われない(相令4の5、相令2)。
また、社団等は、組織体であることに鑑み、組織体が一族支配されている場合や特定の者に特別の利益を与えている場合には、社団等が高度の公益事業を行っているといっても、事業が私的に利用されている面も認められるため非課税財産とはならないとされている(相令4の5)。
公益を目的とする事業を行う者とは、財産を取得したときを基準に判定するが、財産取得の時においては該当する高度の公益事業を行っていない者でも、財産取得の日の属する年の末日までに取得財産を高度の公益事業の用に供することにより本条所定の公益事業を行うこととなった場合には適用が可能である。
贈与を受けた財産は、公益を目的とする事業の用に供することが確実なものでなければならず、贈与を受けた日から二年を経過した日において高度の公益事業の用に供していなければ非課税財産とはならない。本規定につき、法令解釈通達は厳格解釈の立場に立ち、贈与を受けた財産を一度でも公益事業の用途以外に供した事実があるときは、その後公益事業の用に供したとしても本規定の適用はないことと解している。
本規定の対象となる者は、贈与税の納税義務者である自然人又は社団等に限られる。持分の定めのない法人は、贈与者の親族その他特別関係者の相続税又は贈与税の負担を不当に減少する結果となる場合に限り、贈与税の納税義務者となるが、公益事業を行う持分の定めのない法人が贈与税の納税義務者となるときは、同時に本規定の除外規定に抵触するので、受贈財産が非課税財産となることはない。
公益の増進に寄与するところが著しいと認められる事業とは、公益を目的とする事業のうち、事業の種類、規模及び運営がそれぞれ次のイからハまでに該当すると認められる事業をいう。
(イ)公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成18年法律第49号)2条4号《定義》に規定する公益目的事業
(ロ)社会福祉法(昭和26年法律第45号)2条2項各号及び3項各号《定義》に掲げる企業
(ハ)更生保護事業法(平成7年法律第86号)2条1項《定義》に掲げる更生保護事業
(ニ)学校教育法(昭和22年法律第26号)1条《学校の範囲》に規定する学校を設置運営する事業
(ホ)育英事業
(ヘ)科学技術に関する知識の普及又は学術の研究に関する事業
(ト)図書館若しくは博物館又はこれらに類する施設を設置運営する事業
(チ)宗教の普及その他教化育成に寄与することとなる事業
(リ)保健衛生に関する知識の普及その他公衆衛生に寄与することとなる事業
(ヌ)政治資金規正法(昭和23年法律第194号)3条《定義等》に規定する目的のために政党、政治団体の行う事業
(ル)公園その他公衆の利用に供される施設を設置運営する事業
(ヲ)(イ)から(ル)までに掲げる事業を直接助成する事業
事業の内容に応じ、その事業を営む地域又は分野において社会的存在として認識される程度の規模を有しており、かつ、その事業を行うために必要な施設その他の財産を有していること。
(イ)事業の遂行により与えられる公益が、それを必要とする者の現在又は将来における勤務先、職業等により制限されることなく、公益を必要とするすべての者(やむを得ない場合においてはこれらの者から公平に選出された者)に与えられるなど公益の分配が適正に行われること。
(ロ)公益の対価は、原則として無料(事業の維持運営についてやむを得ない事情があって対価を徴収する場合においても、その対価は事業の与える公益に比し社会一般の通念に照らし著しく低廉)であること。
専ら公益の増進に寄与するところが著しいと認められる事業を行う者とは、その者が個人である場合には公益の増進に寄与するところが著しいと認められる公益事業のみを専念して行う者をいうものとして取り扱う(昭55直資2-182改正)(相令2(相令4の5において準用))。
なお、公益事業を行う者が次の者に対しその事業に係る施設の利用、余裕金の運用その他その事業に関し特別の利益を与えるような場合は、公益事業を行っているといっても、その事業を私的に利用している面も認められるため非課税財産として扱わない旨定められている(相令4の5、相令2ただし書き)。
これらの者と特別の関係がある者とは、①内縁関係にある者及びその者の親族で生計を一にしている者、②使用人及び使用人以外の者で当該個人から生計をみてもらっている者並びにそれらの親族で生計を一にしている者をいう(相令31)。
特別の利益を与えることとは、次のような場合をいう。
公益事業を行う者で財産の寄贈を受け、贈与税の納税義務者となる者は個人に限られない。社団等が贈与を受けた場合は、相続税法では個人とみなされ贈与税の納税義務を負う(相法66)。これらの社団等が受贈者となるときは(贈与を受けた財産が非課税財産となるためには)公益の増進に寄与するところが著しいと認められる公益事業(高度の公益事業)のみをその目的事業として行う社団等でなければならない(相法21の3①三、昭396直審(資)24「3」)。
受贈者である社団等が次のとおり一族支配されていたり、施設の利用、余裕金の運用など事業運営に関連し、関係者に対し特別の利益をを与えているような場合は、社団等が高度の公益事業を行っているといっても、事業が私的に利用されている面も認められるため非課税財産として扱わない旨定められている(相令4の5,相令2ただし書き)。
(イ)当該社団等の役員その他の機関の構成、その選任方法その他その人格のない社団等の事業の運営の基礎となる重要事項(注1)について、その事業の運営が特定の者又はその親族その他その特定の者と特別の関係がある者の意思に従ってなされていると認められる事実があること(注2)。
(注1)事業の運営の基礎となる重要事項とは、役員その他の機関の構成、その選任方法の他、次に掲げる事項がこれに該当するものとして取り扱われている(昭55直資2-182改正)。
(注2)特別の関係がある者の意志に従ってなされていると認められる事実があることとは、社団等の運営の基本となる規約等に次の1から4までの事項が定められていないこと又は社団等の事績に5から7までの事実がみとめられることをいうものとして取り扱うとされている(昭55直資2-182改正)。
(ロ)次に掲げる者に対して当該社団等の事業に係る施設の利用、余裕金の運用、解散した場合における財産の帰属その他その事業に関し特別の利益を与えること(注3)。
これらの者と特別の関係がある者とは、①内縁関係にある者及びその者の親族で生計を一にしている者、②使用人及び使用人以外の者で当該個人から生計をみてもらっている者並びにそれらの親族で生計を一にしている者をいう(相令31)。
(注3)社団等が特別の利益を与えることは、社団等の機関の地位にある者、贈与をした者又はこれらの者と特別の関係がある者について、たとえば、次に掲げる事実がある場合又はその事実があると認められる場合がこれに該当するものとして取り扱われている(昭55直資2-182改正)。
贈与により取得した財産は、原則として贈与により取得した財産そのものをいうのであるが、高度の公益事業を行う者が社団等である場合には、次に掲げる財産は、これに該当するものとして取り扱われる。
贈与により資得した財産は、公益を目的とする事業の用に供することが確実なものでなければならない。事業の用に供することが確実であるかどうかは、次により判断することとして取り扱われている。
高度の公益事業を行う者が受贈した財産を取得から二年経過した日においてなおその事業の用に供していない場合には非課税財産とならない。二年を経過した日において公益を目的とする事業の用に供していない場合とは、財産取得の日から二年を経過した日において、贈与により取得した財産を高度の公益事業の用に供していない場合のほか次のいずれかの事実があると認められる場合をいう(昭55直資2-182改正)。