特定公益信託で財務大臣の指定するものから交付される特定の金品の非課税規定(相法21の3①四)

POINT

特定公益信託で財務大臣が指定する学術に関する顕著な貢献を表彰するもの若しくは顕著な価値がある学術に関する研究を奨励するものから交付を受ける金品又は学生若しくは生徒に対する学資の支給を行うことを目的とするものから交付を受ける金品は、委託者が個人である場合には贈与とみなされるが、委託者が法人である場合の所得税と同様に贈与税を課税しない規定を設けている。

財務大臣が指定した特定公益信託から奨学金などを支給されたときに受給者に贈与税が課税されないための規定である。

相続税法では公益信託の寄託者は特定委託者とみなされるので、公益信託から金品を受領すると、委託者が個人の場合には、委託者から贈与があったものとして取り扱われるのが原則である(相法付則24項)。公益性の高い学術奨励金や奨学金などを贈与税の課税対象とすることは好ましくないので、特定公益信託から支給される学術貢献賞賞金や学術研究奨励金のうち財務大臣が指定するものや、学生、生徒に対する学資の支給を目的とする特定公益信託からの奨学金は贈与税の非課税財産としているのである(なお、一時所得の非課税規定と異なり芸術貢献賞賞金は非課税とされていない。)。

なお、委託者が法人の場合は同様の理由で、委託者である法人から個人に対する贈与となり、公益信託から奨学金などを支給される者に対し一時所得の課税対象とするのが原則である(所法34、所基通34-1(五))。特定公益信託の委託者が法人の場合は、学術貢献表彰及び芸術貢献表彰又は学術研究奨励を目的とする特定公益信託から交付される金品で財務大臣の指定するもの及び奨学金は所得税が非課税とされている(所法9①十三)。

公益信託とは、民間の資金を広く一般のために役立てるための制度であり、信託法258条に規定する受益所の定めのない信託のうち、学術、技芸、慈善、祭祀その他公益を目的とするものであって、受託者において主務官庁の許可を受けたものである(公益信託ニ関スル法律1、2①)。主務官庁が信託銀行等に引受けを許可する信託は平成6年9月13日に公益法人等監督事務連絡会議決定が定めた「公益信託の引受け許可審査基準等について(巻末:参考通達等2 参照)」に基づき審査され(同基準には残余財産の帰属についての付則は明記されていないが)、現実に引受けを許可される公益信託は、残余財産が委託者等の手元に戻る可能性があるものはない。公益信託として主務官庁から許可されるものは、すべて税法が定める特定公益信託の要件を具備している。

現実に公益信託は、医療や福祉分野、自然科学や人文科学の研究分野、自然環境保全活動など幅広い分野で活用されている。公益信託には、是姿勢条の区分として「特定公益信託」と「認定特定公益信託」が規定されている。特定公益信託のうち、科学研究助成、学校教育支援、福祉など11の特定分野での信託目的を有するものであること、及びその目的に関し相当と認められる業績が持続できることについて主務大臣の認定を受け、かつ、その認定を受けた日の翌日から五年を経過していないものを「認定特定公益信託」といい、税制上の優遇措置がとられている。

本規定は、特定公益信託のうち財務大臣の指定するものから交付される特定の金品に係る贈与税の非課税規定である。

特定公益信託とは

公益信託のうち、次の①②の要件のすべてを満たす公益信託が税制上の特典のある特定公益信託である(所令217の①、法令77の2①、措令40の4①)。

① 受託者が信託銀行であること

② 次に掲げる事項が信託行為により明らかであること

イ 信託終了の場合において、信託財産が国若しくは地方公共団体に帰属し、又は類似の目的のための公益信託として継続するものであること

ロ 合意による終了ができないものであること

ハ 信託財産として受け入れる資産は、金銭に限られるものであること

ニ 信託財産の運用は、次に掲げる方法に限られるものであること

  1. 預金又は貯金
  2. 国債、地方債、特別の法律により法人の発行する債券又は貸付信託の受益証券
  3. 貸付信託の受益証券の取得
  4. 合同運用信託の信託

ホ 信託管理人が指定されるものであること

ヘ 受託者が信託財産の処分を行う場合には、学識経験者で構成される運営委員会の意見を聞かなければならないものであること

ト 信託管理人及び運営委員会に対してその信託財産から支払われる報酬の額は、その任務の遂行のために通常必要な費用の額を超えないものであること

チ 受託者が信託財産から受ける報酬の額は、通常必要な額を超えないものであること

以上の要件を満たすことについて、主務大臣の証明を受けもの。

認定特定公益信託とは

特定公益信託のうち、特に公益性の高い次に掲げる一又は二以上の信託目的を持ち、信託目的に関し相当と認められる業績が持続できることにつき主務大臣の認定を受けたものをいう(損院体を受けた日の翌日から五年を経過していないものに限る。)(所令217の2、法令77の2③)。

  1. 科学技術(自然科学に係るものに限る。)に関する試験研究を行う者に対する助成金の支給
  2. 人文科学の諸領域について、優れた研究を行う者に対する助成金の支給
  3. 学校教育法第一条《定義》に規定する学校における教育に対する助成
  4. 学生又は生徒に対する学資の支給又は貸与
  5. 芸術の普及向上に関する業務(助成金の支給に限る。)を行うこと
  6. 文化財保護法第二条第一項《定義》に規定する文化財の保存及び活用に関する業務(助成金の支給に限る。)を行うこと
  7. 開発途上にある海外の地域に対する経済協力(技術協力を含む。)に資する資金の贈与
  8. 自然環境の保全のため野生動植物の保護繁殖に関する業務を行うことを主たる目的とする法人で当該業務に関し国又は地方公共団体の委託を受けているもの(これに準ずるものとして財務省令で定める者を含む。)に対する助成金の支給
  9. 優れた自然環境の保全のためその自然環境の保全及び活用に関する業務(助成金の支給に限る。)を行うこと
  10. 国土の緑化事業の推進(助成金の支給に限る。)
  11. 社会福祉を目的とする事業に対する助成

図表Ⅰ-15 公益信託に係る税務

概要公益信託特定公益信託認定特定公益信託
公益信託は、信託法上受益者のいない信託であるが、相続税法は附則24を置き、すべての公益信託の委託者を特定委託者としてみなすこととし、法人課税信託である受益者等の存しない信託に該当しないものとしている。これは、今後の公益信託制度の見直し等を見据え、当面の措置として従前の取り扱いが維持されたものである。公益信託法1条+引受許可審査基準
*引受認可基準には残余財産の帰属についての制限は明記されていないが、現実に許可される公益信託は、残余財産が委託者等の手元に戻る可能性があるものはない。公益信託として主務官庁から許可されるものは、すべて税法が定める特定公益信託の要件を具備している。
所令217の2①② 所令217の2③
法令77の4①② 法令77の4③
信託財産の帰属の定め・解除不可・受託財産は金銭のみ。運用限定。信託管理人+学識者の助言。信託報酬も制限。目的の限定(助成型活動)。業績が持続可能。主務大臣の認定を要求。
財産拠出時





委託者への税制優遇(所得税法上の寄付金控除・税額控除)なしなしあり(所法78③(信託時の拠出も対象))
相続・遺贈を受けた財産を公益信託に拠出した場合なしなし(所令217の2①三により、金銭以外の財産受け入れは不可)
受託者・受給者(≠受益者)等への課税なし。公益信託の委託者は特定委託者とみなされるため、公益信託は受益者等の存在しない信託に該当せず、他に植木社が存しなければ、信託財産の移転は認識されず受託者や受給者(受益者ではない)には課税されない。





委託者への税制優遇(法人税法上の寄付金優遇税制)なし。一般寄付金として損金算入限度額の範囲で損金算入することができる。あり。特定公益増進法人に対する寄付金と同じ扱いを受けることができ、一般寄付金の損金算入限度額とは別枠で一般寄付金の損金算入と同額まで損金算入が認められる(法法37⑤③三)。
信託収益時





投資所得非課税(所法11②)
利子(源泉所得税)
キャピタルゲイン課税非課税(所法11②) 所令217の2四により運用可能資産が限定されているので、キャピタルゲイン課税の問題は生じない(所基通33-1、祖法37の15)。





投資所得 課税(法法附則19の2=委託者課税)非課税(法法12①②)
利子(源泉所得税) 非課税(所法11②)
キャピタルゲイン課税 課税(法法附則19の2=委託者課税) 法令77の4①四で運用可能資産が限定されているので、キャピタルゲイン課税の問題は生じない。
公益目的給付時(奨学金等、受給者に特定しうる経済的利益が生じている場合には委託者からの贈与とみなされる。)





受給者個人贈与税課税(相法9)学術貢献の表彰、学術研究の奨励、学生等への学費支給の金品に限り非課税(相法21の3①四)。





所得税課税(一時所得時)学術・芸術に関する貢献の表彰、学術研究の奨励、学生への学費支給の金品に限り非課税(所法9①十三、十四)。
受益者が法人の場合原則として益金算入。受益者が公益法人の場合は非課税(法法7)。
委託者死亡時
公益信託の委託者は、相続税法上、特定委託者とみなされ、信託財産は被相続人である委託者の相続財産を構成する。委託者の相続人に相続税課税(相法附則24、相法9の2⑤)信託財産は委託者を被相続人とする相続財産に含まれるが、相続税価額は零とされる(相基通9-2-6)。

(参考文献:藤谷武史「公益信託と税制」第37回信託法学会総会(2012年6月10日)報告書記載の表の一部を基に一部変更して作成)

図表Ⅰ-16 委託者が個人の場合の公益信託課税関係図

委託者が個人の場合の公益信託課税関係図

委託者死亡:相続税法は公益信託の委託者を特定委託者とみなす規定を置いている(相法付則24)。公益信託のうち、委託者に残余財産が帰属しない等一定の要件を満たすものを特定公益信託という(所法79③、所令217の2)。特定公益信託の委託者は、残余財産を取得しないので、信託から利益を受けることはなく、信託をコントロールする権限を有するにすぎない。このため、特定公益信託の受託者の地位が移動した場合には、当該信託に関する権利の価額は零として取り扱うこととされている(相基通9の2-6、9の4-2)。

図表Ⅰ-17 委託者が法人の場合の公益信託課税関係図

委託者が法人の場合の公益信託課税関係図

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