平成25年度税制改正において、前述の前払い贈与のうち、孫の教育資金に充当させるために、あらかじめ、まとまったお金を贈与する場合には、1,500万円を限度として贈与税が課税されない制度が創設された。この制度創設を受け、平成25年4月以降、信託銀行各社が受付を開始した信託が教育資金贈与信託である。
教育資金贈与信託とは、贈与を行う祖父母が信託銀行と贈与資金管理契約を結び、金銭を信託し、孫をすべての受益権を有する受益者に指定する信託である。孫は教育資金贈与信託の受益者になったときに、信託に関する権利を信託の委託者である祖父母から贈与により取得したものとみなされるが(相法9の2)、信託受益権の価額のうち1,500万円(学校等以外の者に支払われる金銭については、500万円を限度とする。)までの金額に相当する部分の金額については、平成25年4月1日から平成31年3月31日までの間に設定される信託に限り、贈与税が課されない(措法70の2の2)。
教育資金贈与に関するよくある質問
Q 息子Bが孫Cの入学金などを支払った後に、祖父Aが息子Bに同額の金銭を贈与する場合も非課税か。
A 非課税にはならない。扶養義務者からの生活費又は教育費の贈与で、通常必要と認められるものについては、必要な都度直接これらのように充てられるものに限り非課税となる。直系血族である祖父Aも子Bも、ともに、孫Cの扶養義務者であるが、祖父Aが息子Bに贈与する金銭は直接教育資金に充当されるものではないので、通常の贈与として贈与税が課税される。
Q まとまった教育資金を前払い贈与するのに信託銀行以外に利用できる金融機関はあるか。
A 法令上は、銀行、証券会社も受け付けることができる。銀行に預ける場合は、孫との間で贈与契約書を作成した後、金銭を贈与し、贈与を受けた孫が銀行と教育資金管理契約を締結し、贈与を受けた金銭を預金(貯金)する。証券会社を使う場合には、金銭以外に政令で定める有価証券を使うことができる。書面による贈与を受けた孫が証券会社と教育資金管理契約を締結し、有価証券を購入する。
Q 信託や預金、証券口座から引き出したお金を教育資金に使ったかはどのように証明するのか。
A 受贈者(孫)は、教育資金の支払いに充てた領収書など支払いを証明する書類を金融機関に提出しなければならない(平成28年1月1日以降に提出する場合は、領収書等に記載された支払金額が1万円以下で、かつ、その年中における合計支払金額が24万円に達するまでのものについては、当該領収書等に変えて支払先、支払金額等の明細を記載した書類を提出することができる。)。
Q 受贈者(孫)が30歳になった日に教育資金として使用しない金銭があった場合、贈与税はどうなるか。
A 受贈者が30歳になった日に教育資金として使用されなかった額については、30歳になった日の属する年の贈与税の課税価格に算入される。なお、不幸にして、受贈者が30歳未満で亡くなった場合には、残額があっても贈与税は課税されない。
Q 祖父Aが教育資金の一括贈与特例を適用して孫Cに贈与した後に亡くなった場合、贈与した金銭は祖父Aの相続税の対象になるか。
A すでに贈与した金銭であるので祖父Aの相続税の対象にはならないが、孫Cが30歳になったときに教育資金として使用していない金額は、30歳になったときに贈与税の課税対象となる。
Q 税務署への贈与税の申告は必要か。
A 銀行、証券会社、信託銀行等を通じ教育資金非課税申告書が受贈者(孫)の管轄税務署へ提出されるので、贈与税の申告書の提出は不要である。
Q 受贈者の制限はあるか。
A 受贈者は、教育資金管理契約を締結する日において30歳未満でなければならない。
Q 海外に住んでいる孫や二重国籍(米国籍と日本国籍など)の孫、外国籍の孫なども適用対象になるか。
A 税法上、受贈者は「個人」と規定されているので、国籍の有無や日本国内に居住しているかは問わない。海外に居住している孫や、二重国籍、外国籍の孫も税法上は特例の対象なる(《注》米国市民、米国籍との二重国籍者、グリーンカード保有者、米国居住者は、FATCAの対象となる。あわせて、財務省やIRSへForm3520/8938/114などの報告義務を負う点にも注意が必要である)。
Q 外国に所在する金融機関でも取り扱っているのか。
A 外国に所在する金融機関(日本の金融機関の海外支店を含む。)では、取り扱っていない。教育資金贈与信託などを行う信託銀行等は国内の金融機関に限られる。教育資金管理契約に基づく口座を取り扱っているか、海外居住者や外国籍の方の口座が開設できるかなどの取扱いは国内金融機関によって異なる。
Q 学校以外の者に支払われる金額は500万円までだが、これは1,500万円までの非課税枠に500万円を加えて、2,000円まで非課税ということになるのか。
A 非課税限度額の総額は1,500万円である。1,500万円の枠内で、塾や習い事などの月謝などについては、500万円を上限に教育費に含めるという意味である。
Q 非課税になる教育資金の範囲は決まっているのか。
A 教育資金とは、①学校教育法に定める学校や専修学校(以下、「学校業」という。)に支払われる入学金その他の金銭、②塾など、学校等以外の者に支払われる金銭のうち教育のために直接支払われる一定のものとされている。
平成27年度の税制改正で、特例の対象となる教育資金の使途の範囲に、通学定期代、留学渡航費等を加えられた。
Q どのような費用であれば1,500万円まで贈与税が非課税になるか。
A 学校等に対し支払われたことが、学校等からの領収書等により確認できる費用が対象となる。入学金、授業料、入園料、保育料、施設設備費、教育充実費、修学旅行・遠足費などが対象となる(学校等が費用を徴収し、業者等に支払う場合も含む。)。
(注)学校等とは、具体的に次のものをいう。
- 幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校
- 大学、大学院
- 高等専門学校
- 専修学校、各種学校
- 保育所、保育所に類する施設、認定こども園
- 外国の教育施設のうち一定のもの
- 水産大学院、海技教育機構の施設(海技大学校、海上技術短期大学校、海上技術学校)、航空大学校、国立国際医療研究センターの施設(国立看護大学校)
- 職業能力開発総合大学校など
Q 教科書などで学校等で使用するものを、業者から購入した場合は、対象になるか。
A 学校等で使用する教科書、学用品費、修学旅行費、学校給食費などであっても、業者等に支払いがなされる場合は、1,500万円までの非課税枠の対象にならない。
ただし、学校等における教育に伴って必要な費用で、学生等の全部又は大部分が支払うべきものとその学校等が認めたものは、500万円までの非課税枠の対象となる。
この場合には、領収書等に加え、学校等が認めたものであるとわかるもの(具体的な法法は、文部科学省ホームページに掲載されている。)を、金融機関に提出する必要がある。
Q 500万円までの非課税枠には、どのような費用が対象になるか。
A 次の二種類がある。
(1)塾や習い事など学校等以外の者に対して支払われる費用
次の教育活動の指導の対価(月謝、謝礼、入学金など)として支払う費用や施設使用料並びに教育指導者を通じて購入する物品費。
- 学習(学習塾、家庭教師、そろばん)
- スポーツ(スイミングスクール、野球チームでの指導など)
- 文化芸術活動(ピアノの個人指導、絵画教室、バレエ教室など)
- 教養の向上のための活動(習字、茶道など)
(2)学校等が必要と認めた費用を業者に直接支払った場合
学校等で必要となる費用を業者に直接支払った場合でも、学校等における教育に伴って必要となる費用で、学生等の全部又は大部分が支払うべきものと学校等が認めたもの(社会通念上相当と認められるものに限る。)は、500万円まで非課税枠の対象となる。この場合、領収書等に加え、学校等が認めたものであるとわかるものを金融機関に提出する必要がある。
非課税限度額 | 1,500万円まで非課税となるもの | 500万円まで非課税となるもの | ||
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費用の性質 | 学校等で必要な費用 | 学校で必要な費用 | 学校等以外の者に支払われる費用 | |
支払先 | 学校等 | 業者等 | 指導を行う者 | |
証明資料 | 学校等に対して支払われたことが、学校等からの領収書等により確認できる費用が対象。 | 領収書+学校等が必要と認めたとわかるもの | 指導を行う者が発行する領収書 | |
支出内容 | 入学金、授業料、入園料、保育料、施設設備費、教育充実費、遠足費など。これらの費用に該当すれば、学校等が費用を徴収し、業者等に支払う場合も含む。 | 学校等における教育に伴って必要な費用で、学生等の全部又は大部分が支払うべきと学校が認めたもの | 教育活動の指導の対価として支払う費用や施設使用料 | 教育活動で使用する物品の費用 |
備考 | ■学校等とは次のものをいう。 (1)学校教育基本法上の幼稚園、小中学校、高等学校、大学(院)、専修学校、各種学校 (2)外国の教育施設 イ.外国にある教育施設…その国の学校教育制度に位置づけられている学校、日本人学校、私立在外教育施設 ロ.国内にある外国の教育施設…インターナショナルスクール(国際的な認証機関により認証されたもの)、外国人学校(文部科学大臣が高校相当と指定したもの)、外国大学の日本校、国際連合大学 (3)認定こども園又は保育園など | ■対象となる教育活動 (1)学習(学習塾、家庭教師、そろばんなど) (2)スポーツ(スイミングスクール、野球チームでの指導など) (3)文化芸術活動(ピアノの個人指導、絵画教室、バレエ教室など) (4)教養の向上のための活動(習字、茶道など) |
①贈与者 | 贈与を受ける者の直系尊属(父母、祖父母など) |
②受贈者 | 30歳未満 |
③拠出法法 | 受贈者名義の口座を開設し、金融機関へ信託等を行う |
④拠出限度額 | 贈与を受ける者一人につき1,500万円まで(うち、学校等以外の者に支払われる金銭については500万円まで)非課税 |
⑤拠出できる期間 | 平成25年4月1日から平成31年3月31日までの期間 |
⑥信託等の期間 | 次のいずれかに該当する日まで (1)贈与を受けた者が30歳に達した日の前日 (2)贈与を受けた者が死亡した場合は死亡した日 |
⑦信託終了時の扱い | (1)贈与を受けた者が30歳に達したとき 贈与資金から教育支出額(次欄⑧により確認したもの)として払い出した額を差し引いた残額があれば、30歳到達時に贈与があったものとして贈与税を課税する (2)贈与を受けた者が死亡したとき 非課税拠出額から教育支出額として払い出した残額があっても贈与税は課税されない |
⑧受贈者の義務 | (1)特例の適用を受けようとする旨を記載した「教育資金非課税申告書」を金融機関を経由し所轄税務署に提出する |
(2)信託等から払い出した金銭を教育資金の支払いに充当したことを称する書類を金融機関に提出する | |
⑨金融機関の義務 | 提出された書類により、払い出された金銭が教育資金に充当されたことを確認し、確認した金額を記録すると共に、書類等を「贈与を受けた者が30歳に達した日の翌年の3月15日後6年を経過する日」まで保存する |