個人から法人に贈与する場合

POINT

  1. 個人が法人に財産を贈与したときは、贈与資産を時価で法人に譲渡したものとみなされ(みなし譲渡)、贈与した個人に所得税が課税される。
  2. 受贈者が営利法人である場合は、贈与により取得した資産の時価を受贈益として計上し、法人税が課税される。
  1. 受贈者が代表者又は管理者の定めのある人格なき社団・財団であるときは、相続税法上、その人格なき社団・財団は個人とみなされて贈与税が課税される。
  2. 受贈者が、持分の定めのない法人(持分の定めのある法人で持分を共有者がいないものを含む。)であるときは、相続税の負担が不当に減少する結果となると認められれば、個人とみなされて贈与税が課税される。

贈与者


個人が法人に財産を贈与したときは、贈与した個人は、贈与資産を時価で法人に譲渡したものとみなされる(所法59①一)。譲渡資産の時価が取得価額と譲渡経費の合計を上回る場合には、譲渡所得の申告が必要となる。個人間の贈与(無償の資産移転)ならば、贈与財産の取得時期、取得価額は受贈者が引き継ぎ、受贈者が譲渡したときに資産の含み益(値上がり益)に対し譲渡所得を精算的に課税することとされている。(1)

(1)個人A⇒個人B ⇒ 個人Cと土地の贈与があり、Cが売却したときは、収入金額から個人Aの取得価額等を控除した値上がり益が課税対象となる。

仮に、個人から法人に対する無償譲渡において、同様の取り扱いを規定すると、法人に対し無償譲渡があった場合、本来、所得税が課税されるべき値上がり益(個人が所有していた間の値上がり益)が法人に引き継がれ、個人が所有していた間の値上がり益に対し所得税課税されず法人税が課税される不合理な結果を生じてしまう。(2)

(2)個人A⇒法人Bと土地の贈与があり、個人間の贈与と同様の取り扱いをすると、個人Aが所有していた期間に生じた値上がり益(本来、所得税の課税対象)が、法人Bに課税され、法人税の課税対象となってしまう。

このため、法人に対する資産の無償譲渡(遺贈、死因贈与、贈与)については、支配権の移転があったときに、そのときの時価で資産の譲渡があったとみなして贈与者に譲渡所得課税を行い、個人が所有していたときの値上がり益に対し所得税を精算的に課税するのが現行所得税法の規定である(所法59①一)。

贈与といっても、個人が法人に低廉譲渡を行い経済的利益を供与(贈与)しようとする場合には、次のとおりとなる。

  1. 譲渡価額が時価の2分の1以上であれば、譲渡価額により譲渡所得を計算することとなる(所法33、36)。
  2. 譲渡価額が時価の2分の1未満であれば、時価で譲渡したものとみなされる(所法59①二、所令169)。
  3. ただし、譲受者が譲渡者の同族法人であり、同族会社の行為又は計算の否認規定(所法157)に該当するときは、譲渡価額が2分の1以上であっても時価で譲渡されたとして更正又は決定される場合がある(所基通59-3)。

留意すべきは、これら1から3はすべて課税根拠となる所得税の規定が異なることである。

図表Ⅰ-28 法人に対する無償・低額譲渡と譲渡価額

この場合の法人とは、いうもでもなく法人格を有する株式会社や一般社団法人・財団法人、公益法人などをいうが、所得税法上、法人とみなされる人格なき社団や財団を含む(所法4)。人格なき社団や財団が個人から贈与を受けたときは、無条件に個人とみなされ贈与税が課税されるが(相法66①④)、同時に贈与者に対し所得税法59条1項1号が適用され、贈与財産は時価で譲渡されたものとみなされ、贈与者に譲渡所得課税が行われる。

なお、負担付贈与については、負担部分が対価と認められるため低廉譲渡と同様の取り扱いとなる。

個人が法人に対し非上場会社の株式を贈与した場合は、時価で譲渡したものとみなされる。時価とは次のものをいう(所基通23~35共-9、所基通59-6)。

  1. 評価対象法人の株式の売買実例のある者は売買実例のうち適正と認められる価額(売り急ぎ、買い進みのない中値)
  2. 売買実例のないものでその株式等の発行法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式等の価額があるものは、類似会社の売買実例価額に比準して推定した価額
  3. 発行会社の売買実例や比準価額がないものは、次の条件を考慮し純資産価額等を参酌して通常取引すると認められる価額
    • 株式を譲渡した者が中心的な同族株主(注)に該当するときは、発行会社は「小会社」該当するものとして評価する。
    • 純資産評価を行うときに、評価対象会社の資産に土地・借地権等又は上場株式があるときは贈与の時における価額(時価)による。
    • 純資産評価方式で評価する場合は評価差額に対する法人税等相当額は控除しない。

(注)「中心的な同族株主」とは、課税時期において同族株主の一人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び一親等の姻族(これらの者の同族関係者である会社のうち、これらの者が有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である会社を含む。)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である場合におけるその株主をいう。

小会社は、原則として、純資産価額方式によって評価する(評価差額に対する法人税等相当額は控除しない)。ただし、納税義務者の選択により、類似業種比準価額を50%、純資産評価額を50%とした評価方法をとることもできる(相基通179)。

図表Ⅰ-29 取引相場のない小会社の価額

会社区分評価方式
小会社純資産価額
又は
類似業種比準価額×50%+純資産価額×50%
(議決権割合50%以下の同族株主グループに属する株主については、その80%で評価する。)

参考法令等 – 所得税法59条《贈与等の場合の譲渡所得の特例》関係

所得税法基本通達:株式等を贈与等した場合の「そのときにおける価額」

59-6

法第59条第1項の規定の適用に当たって、譲渡所得の基因となる資産が株式(株主又は投資主となる権利、株式の割当を受ける権利、新株予約権及び新株予約権の割り当てを受ける権利を含む。以下この項において同じ。)である場合の同項に規定する「そのときにおける価額」とは、23~35共-9に準じて算定した価額による。この場合、23~35共-9の(4)二に定める「1株又は1口あたりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」とは、原則として、次によることを条件に、昭和39年4月25日付直資56・直審(資)17「財産評価基本通達」(法令解釈通達)の178から189-7まで《取引相場のない株式の評価》の例により算定した価額とする。

  1. 財産評価基本通達188の(1)に定める「同族株主」に該当するかどうかは、株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること。
  2. 当該株式の価額につき財産評価基本通達179の例により算定する場合(同通達189-3の(1)において同通達179に準じて算定する場合を含む。)において、株式を譲渡又は贈与した個人が当該株式の発行会社にとって同通達188の(2)に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に同通達の定める「小会社」に該当するものとしてその例によること。
  3. 当該会社の発行会社が土地(土地の上に存在する権利を含む。)又は証券取引所に上場されている有価証券を有しているときは、財産評価基本通達185の本文に定める「1株あたりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、これらの資産については、当該譲渡又は贈与の時における価額によること。
  4. 財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、同通達186-2により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しないこと。

所得税法基本通達:株式等を取得する権利の価額

23~35共-9

令第84条第1号から第4号までに掲げる権利の行使の日又は同条第5号に掲げる権利に基づく払込み又は給付の期日(払込み又は給付の期間の定めがある場合には、当該払込み又は給付をした日。以下この項において「権利行使日等」という。)における同条本文の株式の価額は、次に掲げる場合に応じ、それぞれ次による。

  1. これらの権利の行使により取得する株式が金融商品取引所に上場されている場合
    当該株式につき金融商品取引法第130条《総取引高、価格等の通知等》の規定により公表された最終の価格(同条の規定により公表された最終の価格がない場合は公表された最終の気配相場の価格とし、同日に最終の価格又は最終の気配相場の価格のいずれもない場合には、同日朝の同日に最も近い日における最終の価格又は最終の気配相場の価格とする。)による。なお、2以上の金融商品取引所に同一の区分に属する価格があるときは、当該価格が最も高い金融商品取引所の価格とする。
  2. これらの権利の行使により取得する新株(当該権利の行使があったことにより発行された株式をいう。以下この2及び3において同じ。)に係る旧株が金融商品取引所に上場されている場合において、当該新株が上場されていないとき、当該旧株の最終の価格を基準として当該新株につき合理的に計算した価額とする。
  3. 1の株式及び2の新株に係る旧株が金融商品取引所に上場されていない場合において、当該株式又は当該旧株につき気配相場の価格があるとき1又は2の最終の価格を気配相場の価格と読み替えて1又は2により求めた価額とする。
  4. 1から3までに掲げる場合以外の場合
    次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に掲げる価額とする。

イ 売買実例のあるもの 最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額

ロ 公開途上にある株式(金融商品取引所が内閣総理大臣に対して株式の上場の届出を行うことを明らかにした日から上場の日の前日までのその株式及び日本証券業協会が株式を登録銘柄として登録することを明らかにした日から登録の日の前日までのその株式)で、当該株式の上場又は登録に際して株式の公募又は売出し(以下この項において「公募等」という。)が行われるもの(イに該当するものを除く。) 金融商品取引所又は日本証券業協会の内規によって行われる入札により決定されるんふうさつごの公募等の価格等を参酌して通常取引されると認められる価額

ハ 売買実例のないものでその株式の発行法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額があるもの 当該価額に比準して推定した価額

ニ イからハまでに該当しないもの 権利行使日等又は権利行使日等に最も近い日におけるその株式の発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額

(注)この取扱いは、令第354条第2項《新株予約権の行使に関する調書》に規定する「当該新株予約権を発行又は割当てをした株式会社の株式の1株当たりの価額」について準用する。

受贈者


贈与税の納税義務者は贈与により財産を取得した個人に限られる(相法1の4)。営利法人は贈与等の納税義務者とはならない。営利法人は、贈与により取得した資産の時価を受贈益として計上し、法人税が課税される(法法22②)。

ただし、営利法人に対する贈与があった場合に、間接的に営利法人の株主に対する利益供与となる場合がある(相法9)。営利法人に対する利益の供与により、その法人の株価が上昇するときには、贈与者から営利法人の株主に対し株価上昇分の経済的利益の贈与があったと認定され贈与税が課される(3)(相基通9-2)。

(3) 会社が資力を喪失した場合における私財提供行為により受ける経済的利益については、債務超過額に相当する部分の金額については、一時的に債務超過となっている場合を除き、経済的利益の贈与としては取り扱わないこととされている(相基通9-3)。

個人が営利法人に資産を贈与したときだけでなく、低廉譲渡、現物出資、債務免除などを行ったときも、同様にその法人の株主に対する経済的利益の供与となり、法人に対する贈与者から株主が経済的利益の贈与を受けたものとして贈与税が課税される。

受贈者となる法人は営利法人ばかりではない。人格なき社団・財団、持分の定めのない法人も受贈者として登場する。受贈者が代表者又は管理者の定めのある人格なく社団・財団であるときは、相続税法は無条件に個人とみなして贈与税の納税義務者としている(相法66①④)。

持分の定めのない法人(持分の定めのある法人で持分を有するものがないものを含む。)は、特定の場合に個人とみなされ贈与税の納税義務者となる(相法66④⑥)。特定の場合とは、贈与者等の親族その他これらの者と特別の関係があるものの贈与税、相続税の負担が不当に減少する結果となると認められるときをいう(相法66④⑥、相令33③)。相続税等の負担が不当に減少する結果となると認められる場合とは、次の適正要件から外れた運営組織や事業運用がなされた場合をいう(相令33③)。

  1. その運営組織が適正であり、定款等により事業運営が特定の者又はその特別関係者の支配に服さないこと
  2. これらの者に対し事業に関連して施設の利用、金銭の貸し付けなどの特別の利益を与えないこと
  3. 定款等において残余財産を国又は地方公共団体又は公益社団法人・公益財団法人その他の交易を目的とする事業を行う法人(持分の定めのないものに限る。)に帰属させる旨の定めがあること
  4. 法令に違反する事実等がないこと

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