相続人の皆様へ

私が税理士法人日本税務総研を故葛田貴税理士(平成28年3月逝去)と一緒に作った最大の理由は、我々国税OBが相続税の調査を行っていた経験と知識を活かし、過不足のない、それでいて相続人に有利なきちんとした申告書を作ることが相続人皆様の安定と利益につながると考えたからです。

相続税の申告書は、❶過不足なく財産を把握し、❷適正な評価を行い、❸最も有利な特例を適用して作成することが重要です。これをしっかりすることにより、相続人の皆様の安定した経済生活が維持されます。
ところが現状は相続税の調査を受けるとその8割が財産漏れや評価誤りを指摘されています。原因の一端に専門家の能力不足がある。きちんとした申告書を作成できる経験と知識を有する相続税の専門家が少ないと考えたからです。

世の中には、税金を払わないことに知力を注いでいる人たちもいます。これらタックスプロモーターともいわれる会計事務所などが万全の知識と経験を有していて、結果として相続人の皆様を不安に陥れることがなければ、いいのですが節税策を提案すること自体、多額の報酬を受けることを目的としているので、提案自体が税体系上トリッキーになったり、バランスを欠いたものになりがちです。
このほか、相続人を取り巻く人たちの中には、無記名の財産なら隠しおおせるだろう意見をする人があるのか、古くは無記名債権、近年では現金や金地金を隠蔽する事案も少なくありません。優秀な調査官から見ると「どうせ見つかるものをどうして一生懸命隠すのだろう」という行為ほど無意味でリスキーなことはありません。

初めて隠し財産を見つけたのは


私が税務署で相続税の調査を始めて行ったのは大学卒業の年でした。その頃、国税専門官試験で採用された職員は、最初の三か月、税務大学校で初任者研修を受け、法人税、所得税、相続税、国税徴収法、法務省職員による不動産登記法などの研修と商学部出身者以外は簿記会計の授業を受けるのが習わしでした。

三か月の研修が終わると、税務署や国税局に配属され、少し慣れてくると調査事案を配布され、譲渡所得や相続税の調査を担当しました。私が初めて隠し財産を発見したのも最初の年でした。その頃は無記名の金銭信託、割引債、それに仮名預金が珍しくない時代でした。

まだ新米の私は、銀行に赴いて、見よう見まねで、行内の書庫に保管されている入出金伝票などを一日調査していました。被相続人の行った入出金伝票を5年分調査すると、預貯金の出入りがある同じ日に同じ筆跡で無記名の金銭信託の入出金があるではないですか。それも数百万円ではなく数千万円です

銀行員に気づかれないよう、素知らぬ顔で退行し、翌日相続人宅を訪れ、これこれの金銭信託をお持ちでしょうと問いかけました。相続人はぎょっとした顔をされ、「いえ、知りません」とおっしゃったのですが、とりあえず、預金通帳などを保管している場所を見せてくださいとお願いし、奥まった部屋のタンスの引き出しを開けていただくと、預金通帳に混ざって無記名の金銭信託の証書が出てきました。

月給分は働いたかなというのがその日の感想です。もっとも、その頃の初任給は手取りで6万円ほど、賞与を入れても年俸150万円ほどでした。修正申告で支払っていただいた納税額は二千万円を超えていたので、金額的には、数年分、働いた勘定です。

圧倒的に有利な調査官


そうやって、相続税の調査を10年もしていると、新たに提出された申告書を眺めるだけで

「この申告書は、なんとなくバランスが悪いな」
と感じられるようになるのです。

これは法人税の調査でも同様です。法人税の場合、申告書や決算書は法人の似顔絵のようなものです。提出された申告書決算書科目内訳書を眺めているだけで、この決算書はどうも本物の顔とずれが大きい似顔絵だなということが感覚で分かるようになるのです。

このように、税務調査は調査官の方が圧倒的に有利です。彼ら、彼女らは、毎年、仕事で繰り返し調査を経験します。対して、何度も同じように調査を受ける法人税ならばともかく、相続税の調査を受ける経験は多くても2、3回、たいていの人は生涯に1回ほどです。

それだけではありあません。相続税を含む税法や評価の理論、実務に関する研修も、調査官は初任者研修が3か月、専門官研修がほぼ半年あります。加えて各国税局が独自に行う研修が毎年数日あり専門性という点でも民間の税理士が追い付けないほどの研修を受ける機会があるのです。

さらに、強大な調査権限があります。相続税の申告書が提出されると、税務署は、漏れなく亡くなった方やご家族の銀行や証券会社の取引を照会して把握します。住民票や戸籍謄本も必要とあらば職権で取り寄せることができますし、海外送金や出入国の履歴でさえ調査することができるのです

行き過ぎた節税や脱税はなぜ起こるのか


  1. 旧経団連の元会長から相続した財産約39億のうち無記名の割引債や現金など16億円余を隠蔽し、相続税約9億8000万円の脱税をしたとして、2005年10月にご長男(62)は、相続税法違反の罪で在宅起訴されました。
  2. 建材・住設機器大手法人(東証一部)の創業者で、2011年4月に死去した創業者(2011年4月相続開始)の相続人が東京国税局の税務調査を受け、相続した遺産の株式評価額を巡り、110億円の申告漏れを指摘され、過少申告加算税を含め約60億円を納税しました。創業者は生前、保有していたグループ株の売却で得た資金で金融資産を購入し資産管理会社(非上場)に現物出資。長女側は管理会社株の価値について、約85億円と評価、国税局は220億円と評価するのが妥当だと認定し修正申告を指導した模様です。
  3. 直木賞作家でもある経済評論家(2012年12月相続開始)の遺族3人が東京国税局の税務調査を受け、遺産約12億円と遺産相続した株の配当による所得約12億円の申告漏れを指摘され修正申告を行いました。相続税と所得税の追徴税額は過少申告加算税などを含め計約9億円。
    香港法人の株式は、相続財産として申告していたのですが、東京国税局は遺族側による株式の評価額は実態より約8億円低いと認定したようです。加えて、相続人は、平成12年、13年の2年間にこの株の配当を受け約12億円の配当所得があったのに申告せず、国外財産として報告もしていなかったそうです。また、香港の金融機関にあった被相続人の預金約1億円なども申告しなかったとのことです。

税理士法人日本税務総研は、これらの事案が生ずる原因の一つに、被相続人や相続人の取り巻きのいい加減さがあると考えています。割引債の調査手法は金丸事件の前に既に開発され、能力のある調査官の間では、無記名債権は仮名預金よりも見つけやすいというのが常識になってたのです。元経団連の会長の相続人がきちんとした税理士事務所に相談していれば、隠すだけ無駄ですというアドバイスを受け、刑事事件として訴追されることはなかったのです。

住宅機器大手法人の事案は、新聞記事などでは明らかではないのですが、推定するところ、相続人は資産管理法人を財産評価通達上「大会社」と判定し、類似業種比準価額で評価したと考えられます。問題の資産管理法人は現金の塊なのに、多数の社員を雇い、日々営業している上場企業と比較する評価方法(類似業種比準方式)を採用して申告したものと推定されます。
使われたのは、いわゆる「評価通達を駆使して評価を下げる」手法です。財産評価通達が相続税法上の「時価」の解釈通達であることを忘れ、通達があたかも法令であると勘違いした節税手法なのです。巨額の資産を持つ創業者らの相続では「タックスプロモーター」といわれる会計事務所などが考案した節税策を採用することがあります。素人目には税法のプロのように見える「専門家」が、優秀な調査官からみると単なる節税マニアにしか見えないことが珍しくはないのです。

直木賞作家である経済評論家の事案は、海外資産は把握されにくいという考えに囚われた取り巻きのアドバイスを真に受けて行った申告のように見えます。結果として各種のペナルティーを負担することとなったのは、国税局・税務署の調査能力を甘く見すぎていたことが原因です。

むすび


いま、このサイトをご覧になっている方は、どなたかが亡くなられ、「頼りになる税理士はどこかな」と探していらっしゃる方が多いと思います。

相続税の税理士選びは、激しい歯痛の時の歯科医選びに似ています。

散髪屋や美容院ならば、間違っても取り返しがつきますが、根の治療ですむのに抜かれた歯は二度と再生できません。

適切な治療を行ってくれる信頼できる歯科医を見つけるのは意外に難しいものです。

生涯に一度や二度しか経験しない相続税の申告も同様です。税理士の能力を試すのは、実際に会って相談することが一番です。ぜひ、当事務所のベテランの税理士のヒヤリング能力をお試しくださるようお勧めいたします。

平成29年8月末日

Life’s a little easier with JTMI.
Japan Tax Management Institute,GPC.

田中 耕司 / 代表社員

JTMI 税理士法人 日本税務総研
代表税理士 田中耕司