税理士なら全税目がわかってあたりまえ!?
法人税法、所得税法は会計理論の上に成り立っている税法ということができます。税理士の多くは、法人税と所得税、それに消費税の税務代理を行うことで事務所を維持しています。
いわゆる資産税といわれる領域(相続税・贈与税・譲渡所得)は、税法の適用される前提となる事実の把握や解釈の多くを民法に依存しています。
また、相続実務の世界では、被相続人が所有している土地の上に、同族法人の建物があったり、逆に、法人所有の土地の上に、被相続人の所有している建物があったりします。この場合、借地借家法や「法人税・相続税における借地権課税」の理解が不可欠です。
加えて、相続税の世界は、「財産の評価」を抜きには語れません。財産評価理論にも通じている必要があります。「時価」とはなにか真剣に悩んで勉強したり、研修を受けた経験を有する税理士が必要です。同族会社の評価を行うには会計の知識も必要です。
かような意味で、「相続税専門の税理士」をきちんと整理すると、「相続税法と民法、法人税法、簿記会計並びに評価」の理論と実務に精通している税理士ということができます。税理士として弁護士と専門的な会話ができ、かつ、公認会計士とも会話ができるという能力が求められます。
いわゆる「相続税専門の税理士」が誕生した経緯
バブルと借入金とアパート建築
相続税の申告数は年間約10万件(平成27年、財務省HP)です。登録している税理士の数は約7万人です。単純に事案を割り当てても、税理士1人当たり1.42件です。
バブルの最盛期である平成元年あたりから、相続税の節税を売りにする税理士事務所が複数登場しました。「更地にアパートを建てて他人に貸すと土地は購入価額の20%減額になり、かつ、貸家建付地評価ができるので18%減額されます。建物は固定資産税評価額になり建築価額の半額以下になります。くわえて、貸家評価しますから固定資産税の評価額の70%にすることができます。というセミナーを盛んに開催しました。
「お金を借りてアパートを建てて貸しましょう」というセミナーです。
これらの税理士事務所(いまではその多くが税理士法人になっています。)がいわゆる「相続税専門の税理士事務所」という表現を最初に使い始めた事務所です。
その頃、税務署の資産税の調査官は「なにをバカなことをしているのだろう。評価が下がるということは換金価値もさがるということなのに、財産の価値を下げて相続税が減るのは当たり前。相続税の評価額だけが下がって、財産価値は下がらないと錯覚しているのだろうか」と首をかしげていました。
バブルが崩壊し、土地の価額は半値八掛け五割引きといわれるほど値下がりし、家賃も当初の計画より減額してしまったので借入金の返済に苦慮する地主さんが増加しました。
「相続税対策破産」という社会現象も生じました。
基礎控除を4割減額する相続税法の改正
リーマンショックでそれまで組織再編や資産の流動化を専門にしていた税理士事務所は、仕事が激減し苦境に陥りました。その約7年後、相続税法が改正され、基礎控除が4割削減されたことを受け、相続税の申告を行わなければならない件数が従来の2倍に増加しました。これを受け、「相続税専門税理士」を謳う事務所が増加しています。
税法を専門的に理解できている税理士の見分け方
税法の世界では基礎控除と非課税とは異なります。
「相続人が相続開始前3年以内に受けた贈与は相続税に加算されます」という説明は誤りです。3年内加算を受ける人は必ずしも「相続人」ではありませんし、相続人も財産を取得しなければ3年内加算をされることはありません。
「贈与税は110万円まで非課税です」という表現は不正確です。「110万円の基礎控除があります」というのが正しい理解です。
この二つの勘違いが関係すると、単に、用語の違いではすまされないことが起きる可能性があります。
相続又は遺贈により財産を取得した人(かならずしも「相続人」に限りません。)が被相続人から相続開始前3年以内に受けた贈与は、相続財産に加算して相続税を計算します。基礎控除以下の贈与でも加算されます。110万円まで「非課税」でしたら理論上加算されません。110万円という数字は「基礎控除」をあらわす数字です。税法の世界では、非課税財産ならば加算されず、基礎控除だから加算されるのです。
小規模宅地特例(自宅が80%減額)で下がるのは「評価」ではありません。
被相続人が相続開始直前に自宅として使っていた家屋の敷地は、特定の人が相続または遺贈により取得すると、評価額の80%を減額した金額が課税価格とされます。
被相続人の自宅の敷地の相続税評価額を5,000万円とします。小規模宅地等の特例が適用できると、相続税の課税対象となる課税価額は80%減額され1,000万円になります。被相続人の自宅の敷地を一定の人が相続又は遺贈により取得するからといって評価額が下がることはありません。課税価格が80%減額されるのです。
一見細かいことですが、神は細部に宿るといいます。しっかりとした基礎知識を身に着けている税理士に依頼することが遺産を守るために大切です。