遺産分割協議のやり直し
遺産分割
遺産分割とは、被相続人(亡くなった方)が残された遺産を相続人間で分けることです。
被相続人が、遺産の分配に関して遺言書を残しておられない場合、相続開始(被相続人の死亡)と同時にその財産は相続人全員で共有している状態となります。
しかし、いつまでも共有状態を続けるわけにはいかないので、各財産を誰が取得するか決めなければなりません。(ただし、財産の種類によっては、共有状態とならず、分割の対象となる遺産から除外されるものもあります。)
このように相続財産を誰が取得するか決めて相続人間で分配することを遺産分割といいます。
遺産分割を行う際には、相続人が全員で分割協議を行う必要があります。
遺産分割を行わずに、全ての遺産を相続人全員の共有財産として残しておくことも可能ですが、共有のままではその財産の管理や運用に支障を生じ、将来もめ事の原因となりかねません。
それを未然に防ぐためにも、相続が発生した際には早期に遺産分割の協議をして個々の遺産を各相続人に配分しておくことが必要です。
不動産については、自宅は配偶者が、あるいは事業継承のために後を継ぐべき相続人(長男など)が相続するというケースが多いようです。また、金融資産を含めてほとんどの財産を配偶者に相続させるというケースもあります。配偶者の税額軽減を使えば、一定の枠(1億6千万円または全財産の半分)までなら配偶者の納めるべき相続税額は0になり、一見すると有利です。
ただ、長い目でみると、早い段階で財産を次の世代に移しておいた方が得な場合もあります。例えば、お父様が亡くなってお母様が遺産の多くを相続されたような場合、お母様ご自身が既にお持ちの財産と相続で取得された財産とを合わせると、次の相続のときに納める税額が極めて多額になってしまうということもあり得ます。
配偶者居住権
2018年の相続法改正によって、配偶者居住権という制度が新設されました。遺産分割協議の中で、配偶者居住権の取得を希望し共同相続人全員の合意を得れば、自宅の敷地・建物を相続しなくても、配偶者は終生居住建物の使用収益ができるという権利です。(分割協議によるほか、遺産分割の審判や遺贈・死因贈与によっても取得することができます。)この制度は、2020年4月1日から施行されています。
遺産分割協議のやり直し
遺産分割協議とは、相続発生後、相続人全員の協議によって相続財産の分配を決めることをいいます。
一部の相続人を排除して他の相続人だけで分割協議を行った場合、その分割は無効です。
後から他の相続人が出現したりして、先の分割協議が相続人全員によるものでなかったようなときには、有効な遺産分割協議としては成立していませんので、新しく判明した相続人も加え改めて相続人全員による分割協議が必要です。
一旦有効な分割協議が成立した後に、遺産分割協議をやり直すことは可能です。
その際も、相続人すべての合意が必要です。
ただし、再分割の内容によっては、贈与税その他の税金を課されることもありますので注意が必要です。
遺言書(自筆証書遺言の作成方式が改正されました)
2018年の相続法改正によって、自筆証書遺言が作成し易くなっています。
遺言とは、死後の財産の処分等について、被相続人が生前に自分の意思を表示しておくもので、法的に効力をもつのは、財産の処分や認知・相続人廃除などの身分行為に関する事項です。
自分の財産をどう処分するかは(相続人の遺留分を侵害するものでない限り)自由に決められるのが原則ですので、被相続人が、遺言でどの財産を誰に取得させるかも含めて死後の財産の分配を予め決めている場合には、遺産分割協議を経る必要はありません。ただし、分配する財産の割合だけしか決められていなければ、相続人の協議によって具体的な財産を誰がどのように取得するかを決める必要があります。
遺言には、事故等の緊急時にのみ認められる特別方式の遺言と通常時いつでも作成できる普通方式の遺言とがあります。
普通方式の遺言
普通方式の遺言には、次の3つのものがあります。
自筆証書遺言(民法968条)
文字通り、遺言者が自筆で作成する遺言です。従前は、遺言の全文、日付、氏名を遺言者が自筆で書いて押捺することが要件とされ、代筆やパソコン等による印字は認められていませんでした。2018年の相続法改正によって、不動産や預貯金等の財産目録については、代筆やワープロ作成が可能となり、不動産登記事項証明書や預貯金通帳の写しなどを添付して財産目録とすることもできるようになりました。それらのすべてのページに署名・押印が求められる点はやや面倒ですが、この自筆証書遺言の方式緩和は、特に高齢者にとっての負担軽減を意図したもので、2019年1月13日から既に施行されています。
更に、今回の相続法改正に伴い、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が制定されました。
従前、自筆証書遺言については、遺産分割前に家庭裁判所での検認手続が必要でしたが、この保管制度を利用すれば法務局で本人確認の上、形式審査も行うので、相続開始後の検認の手続は不要となり、遺言書に基づいてすぐに遺産分割手続に入ることができます。
法務局で、日付の誤りや署名・押印漏れなど方式の不備がないかチェックされ、紛失や破棄、偽造等のおそれもなくなりますので、後日の無用な紛争を避けることができます(もっとも、遺言書の内容そのものや有効・無効の争いまで防ぐことはできません)。
ただ、この制度を利用するためには、遺言者本人が法務局に遺言書(無封・原本)を持参して保管申請をする必要があり、代理申請は認められません。ですから判断力などはしっかりして文字も書けるけれど、外出等が困難な場合に使えないのは難点です。
この保管制度は、2020年7月10日から全国の法務局で始まり、申請できる遺言書保管所は、遺言者の住所地、本籍地、所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する遺言書保管所となります。
公正証書遺言(民法969条)
公証人が法律の定める方式で作成する遺言書です。
遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授することや遺言能力(遺言の内容とその法律効果を弁識・判断し得る能力)などの要件に加えて、証人2人以上の立会いが必要です。
そのメリットは、相続開始後の検認手続が不要であること、原本が公証役場で保管される紛失の危険がないこと、平成元年以降に作成されたものについては、全国の公証役場で検索が可能で遺言書の存在が明らかになることなどです。(自筆証書遺言についても上述した保管制度を利用すれば、これらの点でのデメリットはほぼ解消されることになります。)
公正証書遺言の要件のうち、次の二点は、特に留意する必要があります。
- 口授の有無(遺言内容について口授があったといえるかどうか)
- 遺言能力(死後の財産処分等をするだけの意思能力を備えているかどうか)
これらの要件に欠けるとして裁判で無効とされた例も散見されます。(公証人が作成したからといって有効になるわけではありません。)
秘密証書遺言(民法970条)
遺言の内容を誰にも知られたくない場合に用いる方式です。
遺言者が作成した遺言書に署名・捺印した上で封筒に入れて封印(遺言書に押したものと同じ印鑑)し、これを公証人及び証人2人以上の前で提出して、公証人の認証をもらいます。自筆証書の場合と異なり、遺言書の内容はパソコンやワープロでも構いませんが署名だけは自署する必要があります。また、公証役場で保管するわけではないので、紛失等のおそれはありますし、公証人は封印後の認証をするだけで遺言書自体の形式チェックはできませんから、相続開始後の検認手続も必要です。